初代素数王の備忘録

KA4T6X|X=9(カステラくん)は素数。

【第2期HNP杯】データ分析

6月14日から3ヶ月に渡って繰り広げられた素数大富豪トーナメント第2期HNP杯が終了しました。決勝では予備予選から全勝で勝ち上がってきたマリンさんを破り、HNP杯2連覇を達成しました。

今回もデータ分析の結果を述べていきます。

基本情報

まずは第2期HNP杯の概要のおさらいから。

  • 予備予選: 参加者12名(カステラ第1期HNP杯選手権者を含む)が抽選で決められた4名とそれぞれ2本先取の試合を行う。勝数の多い順(同数の場合はセット勝率の高い順、当該プレーヤー同士の対戦成績順(予備予選で対戦があった場合))に本戦トーナメントの順位を決定する。ただし現HNP杯選手権者は7位以上になった場合、現HNP杯選手権者は本戦トーナメントを免除され決勝トーナメント進出。この場合、現HNP杯選手権者より下のプレーヤーに対し順位の繰り上げが行われる。
  • プレーオフ: 勝敗・セット勝率・当該プレーヤー同士の対戦成績で順位が決まらないときは該当者同士で1本先取・総当たりのプレーオフを行い順位を決定する。実際は9位・10位決定戦(該当者2名)が行われた。

カステラ第1期HNP杯選手権者は予備予選において4位となり決勝トーナメント進出が決定。

  • 本戦トーナメント: 現HNP杯選手権者を除く11名を予備予選の順位に応じて2ブロック(A・B)のパラマス式トーナメントに振り分け、2本先取の対戦を行う。各ブロックから勝ち残り者および最多勝利者(勝ち残り者を除く。予備予選の勝数を含める。複数いる場合は予備予選の上位者)の2名、合計4名が決勝トーナメント進出。さらに各ブロックから本戦トーナメントで1勝以上挙げたプレーヤーでもっとも上位まで勝ち進んだ者(前述の決勝トーナメント進出者を除く)および最多勝利者(前述の各事項の該当者を除く。予備予選の勝数を含める。複数いる場合は予備予選の上位者)の2名、合計4名がワイルドカード決定戦へ進出。
  • ワイルドカード決定戦: 進出者4名によるトーナメント。2本先取。勝ち上がり1名が決勝トーナメント進出。
  • 決勝トーナメント: 現HNP杯選手権者・本戦トーナメント勝ち抜け者4名・ワイルドカード決定戦勝ち抜け者1名の合計6名によるトーナメント。現HNP杯選手権者および本戦トーナメント勝ち抜け者の中で予備予選が最上位のプレーヤーはシードとなる。3本先取。

分析対象はHNP杯の全試合(42試合・113勝負)です。

  • 予選リーグ(24試合・63勝負)
  • プレーオフ(1試合・1勝負)
  • 本戦トーナメント(9試合・21勝負)
  • ワイルドカード決定戦(3試合・7勝負)
  • 決勝トーナメント(5試合・21勝負)

行動データ

素数出しやグロタンカット・ペナルティなどの割合を比較します。比較対象は以下の通り。
第3期Mathpower杯(2018年10月)/マスパーティ杯・一般の部(2019年10月)/第1期HNP杯(2020年4月~7月)/マスプライム杯2020(2020年9月(オンライン予選)・11月(決勝大会))/第2期蝉王戦(2020年7月~11月)/第2期雪華流星戦(2020年11月~2021年4月)/マスプライム杯2021(2021年7月(オンライン予選)のみ)

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第2期雪華流星戦のデータ分析記事素数出しの割合は46%に収束するだろうという旨を述べましたが、第2期HNP杯では46%を割り込み過去最小となりました。
第2期雪華流星戦*1と比較してグロタンカットの割合は減少、ラマヌジャン革命の割合は上昇、合成数出しの割合の減少という結果になっておりますが、その原因として全出し戦略から生じるさまざまな要素が影響していると考えられます。具体的には

  • 全出し戦略を採ろうとして全出ししたところ素数で上がってしまったことが(たまたま)多かった(初手全出しHNPが5回・初手11枚出しHNP*2が2回・先手全出し直後の後手の全出しHNPが4回)。→相全出しでは頻繁に出るグロタンカットの割合が減少。
  • 本来全出しが多いマリンさんが全出し戦略に持ち込む展開が(たまたま)少なかった(全出ししなくてもほぼ勝ち確定の初期手札・初手11枚出しがHNP・全出し直後の後手が全出しHNPなどでマリンさんが先手だった13勝負のうち全出し戦略が使える展開になったのはわずか1勝負)。→相全出しでは頻繁に出るグロタンカットの割合が減少。
  • 相全出しになった後、革命状態したいプレーヤーと平常にしたいプレーヤーとの間で拮抗し革命の出し合いが相次いだ(2回以上革命が起きたのが9勝負(2回が5勝負・3回が1勝負・4回が2勝負・5回が1勝負*3 ))。→ラマヌジャン革命の割合の上昇。
  • overKJQJが出る回数が少なかった(5回/113勝負。第1期HNP杯は17回/139勝負・第2期蝉王戦は16回/201勝負・第2期雪華流星戦は13回/205勝負)。→合成数出しの割合の減少。

相全出しが少なかったこともあり、1勝負当たりの平均手数は9.4手とマスパーティ杯・一般の部(8.8手)*4や第2期雪華流星戦(9.1手)に次ぐ低水準。中央値は5手と過去最小になりました(表にはありませんが札幌杯・無差別級(2020年2月)において平均手数7.4手、中央値5手を記録)。
また、overKJQJが減り革命が増えた原因として手札の偏りによる部分もあるかと思いますがoverKJQJは戦術として確立し対策もされるようになった(4枚出しを避ける・overKJQJにoverKJQJで返されるのを警戒し比較的小さなoverKJQJは出されなくなった)一方で、革命はいまだ戦術が整備されておらず(整備すること自体の労力が大変)力戦になりがちである(結果として形勢が不安定で革命が何度も起こる)ことが挙げられます。

出された数について

複数回出された数、およびその中で複数のプレーヤーが出した数をそれぞれ一覧にしました。

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上位に入る数たちは多少の順位変動はあれど顔ぶれはこれまでどおり特殊(57・1729・X)、各枚数の最大クラスの素数合成数、1・2枚出し、偶数消費の素数が並びます。
表にある数で個人的に気になったものをピックアップして紹介します。

  • 86423(5回)・24683(3回)/463643(各2回) 同じカードの組み合わせでできる素数が同時にランクイン。プレーヤーによって覚えている数が違ったり、平常時と革命時で使い分けることでこうした現象が発生します*5。現にもるぴかさんが平常時に86423、革命時に24683と使い分けていました。
  • 8121013(4回)・8121011(3回) 第2期雪華流星戦では8121011が12回、8121013が1回だったのが今大会では逆転。第2期雪華流星戦のデータ分析記事で8121011はoverKJQJ戦略の下で頻出する素数であることを述べましたが、今大会ではoverKJQJが少なく8121011の回数が伸びませんでした。一方で8121013はもるぴかさんが3回出したことで全体の回数も増えました。
  • 98765432110111213(3回) 1桁のカードを降順に並べたあとに2桁のカードを昇順に並べてできる13種13枚の素数。なお13種13枚素数の最大は98765432131121011です。
  • 665366553(各2回) 一見何の変哲もない偶数消費型素数ですが、昨年度(2020年度)を通して1回も出されなかった素数です。これまで出されなかった原因としては似ている著名な素数がありそちらが優先される(5651・5653・5657・5659で合計12回、65651・65657・56569・56659で合計6回、66523が2回出ている)、5はグロタンカットに使われることが多いことなどが考えられます。
  • 44887(2回) 同じく昨年度1回も出されなかった素数ですが、上位互換の48487・48847が各1回出ております。今大会では2回とも革命下で出されました。また44887はマスプライム杯2021オンライン予選でも1回出されました(巽さんが出会った)。

プレーヤーごとの集計

これまで各大会ごとに何名かのプレーヤーを選出しそのプレースタイルの比較を行っておりましたが、今回は長期的なプレースタイルの傾向を見るため、また安定した結果を得るため今年度(2021年度)の大会がすべて終了したあとに分析したいと思います。とはいえそれだけ記して分析を終えるのも素気ないと思うのでプレーヤーごとの行動データの表とグラフをつくりました。

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グロタンカットを最も多く出した人”グロタンカッター”はマリンさん(11回・第2期雪華流星戦に続き2大会連続)、ラマヌジャン革命を最も多く出した人”革命家”は完全数さん(8回)、単独ジョーカーを最も多く出した人”道化師”はnishimuraさん(5回・第2期雪華流星戦に続き2大会連続)でした。

まとめ

HNP杯と銘打たれた大会ということもあってか、HNPによって全出し戦略になることが少なくなった影響が大きく現れた結果となりました。100~200勝負程度では確率の偏りによってこうしたことが起こることを身をもって体験しました。サンプルの数がもっと増えれば多少は軽減されるかもと思いながら筆を置くことにいたします(無い筆を置く)。

現在、第3期蝉王戦およびサブ大会の参加者募集中です。応募フォームはこちら。
docs.google.com

明日(9月25日)はマスプライム杯2021決勝大会です。見どころ紹介記事はこちら。
graws188390.hatenablog.com

おまけ

第2期HNP杯終了時時点の素数大富豪イロレーティングを計算いたしました。結果は以下の通りです。イロレーティングについてはこちらの記事を参照。

graws188390.hatenablog.com

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緑色: 第2期HNP杯参加者かつマスプライム杯2021決勝大会進出者 / 黄色: 第2期HNP杯参加者 / 青色: マスプライム杯2021決勝大会進出者

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*1:マスプライム杯は他の大会には参加していないプレーヤーも出場し割合の傾向が異なる。

*2:初期手札とドローを合わせた12枚すべて出すと3の倍数になるときに初手11枚出しすることがあります。

*3:1勝負でのラマヌジャン革命5回は過去最多(2021年8月1日・予備予選・完全数-OTTYの3本目)。

*4:時間による途中終了あり。

*5:個人的には86249との混同やAQJ59=K*86243(7Tを除く11種11枚合成数)との関係で86423を忘れて86243を出すことがあります。

【マスプライム杯2021】決勝大会のみどころ

9月25日(土)に開催される素数大富豪大会「マスプライム杯2021決勝大会」まであと4日となりました。7月に行われたオンライン予選を勝ち抜けた8名による素数大富豪の頂上決戦です。本稿では、決勝大会に出場する各プレーヤーとその注目ポイントを紹介いたします。

決勝大会出場者紹介動画が公開されております。

www.youtube.com

決勝大会の概要

マスプライム杯は2016年から2018年に開催された「Mathpower杯」、2019年に開催された「マスパーティ杯」の後継となる、素数大富豪界でいちばんの歴史と規模をもつ大会で、2020年から現在の名前になりました。昨年に引き続きオンライン予選を行い、勝ち残った8名が決勝大会に駒を進めます。決勝大会は当初は実地(横浜)で行われる予定でしたが、昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴いオンラインでの開催となりました。7月17日のオンライン予選には31名が参加し、激闘の末決勝大会へ進出する8名が決まりました。

当ブログではMathpower杯・マスパーティ杯・マスプライム杯を総称して「MPC」と記します。

出場プレーヤー

オンライン予選を勝ち抜き決勝大会へ進出した8名を順に紹介いたします。(敬称略、「 」内は動画内で紹介されているキャッチコピー、( )内はオンライン予選時のブロックおよび予選の対戦相手と結果)

  • OTTY 「8QT素数で優勝を狙う」 (Aブロック、1回戦・対ななみ(2-0)、2回戦・対巨大なナメクジ(2-0))

素数大富豪一家の兄*1で、北海道大学素数大富豪同好会の創設者・初代会長。現在は社会人として関東で生活している。今や当たり前となった多枚出しやoverKJQJを始めたのがOTTYさんである。8QTから始まる素数をよく出し、マスプライム杯2020では8QTJKQ3456789AA2359QT7(22枚29桁)の素数を出した*2。オンライン予選ではすべてのセットを短手数で難なく勝利し、2年連続の決勝大会進出。また配信の解説を担当した。第3期Mathpower杯ベスト8、第1期蝉王戦ベスト4、札幌杯・無差別級ベスト4、第1期HNP杯ベスト4、マスプライム杯2020準優勝、第2期雪華流星戦ファイナル進出。

  • はち 「三度の飯より合成数 (Bブロック、1回戦・対ロべピ(2-1)、2回戦・対タカタ先生(2-1))

北海道大学素数大富豪同好会会員。自作のプログラムで素数探索し、それらを使いこなすほか、合成数出しも得意とする。即興で掛け算の等式をつくり、因数が素数であることを賭けて出す「HNC戦法」*3の唯一の使い手。現在知られている最大の素数大富豪合成数(3^8*20K89^8≒1.775*10^46)の発見者*4。オンライン予選2回戦ではタカタ先生の「タカタシステム」に翻弄されながらもフルセットの末制し2年連続の決勝大会進出。札幌杯・ライト級優勝、マスプライム杯2020ベスト8。

  • nishimura 「cpuの中の人」 (Cブロック、1回戦・対二世(2-0)、2回戦・対カステラ(2-1))

Webでcpuと素数大富豪ができる素数大富豪FC2の作者。8~9枚出しを精度よく組み切って出す正統派プレーヤー*5だが、最近は全出しの風潮に合わせてか十数枚の超多枚出しも出すようになった。オンライン予選は2回戦で私と対戦して勝利し2年連続の決勝大会進出。第3期Mathpower杯ベスト8、第1期蝉王戦優勝、マスパーティ杯準優勝、第1期雪華流星戦ファイナル進出、第1期HNP杯準優勝、マスプライム杯2020ベスト8、第2期雪華流星戦ファイナル進出、第2期HNP杯ベスト4。

  • ささら 「北海道のニューホープ (Dブロック、1回戦・対tsujimotter(2-0)、2回戦・対かいたい(2-0))

北海道大学素数大富豪同好会現会長。OTTYさんとは師弟関係にある(OTTYさんが師匠、ささらさんが弟子)。全出しが多めで素数に当たることもよくある。相全出しになるとラリーで試合を長引かせチャンスを窺う*6。オンライン予選2回戦ではマスプライム杯2020ベスト4のかいたいさんを破り決勝大会進出を決めた。大会における上位入賞の経験はないが、過去にはOTTYさん・nishimuraさん・もりしーさんの各者に勝利の経験があり台風の目になれるか。

  • マリン 「オンライン時代の申し子」 (Eブロック、1回戦・対ヤスナ(2-0)、2回戦・対完全数(2-0))

関東在住の高校3年生。素数大富豪を始めてわずか半年で全出し戦法を習得し*7、自身2度目の大会となった第2期雪華流星戦では強豪相手に次々勝利し優勝。「素数大富豪界の藤井聡太」と評される。相全出しに持ち込みoverKJQJやn枚2n桁素数によって大きさで制する素数大富豪界随一のパワー系プレーヤー。もりしーさんに匹敵する強運の持ち主で相全出しにするための初手全出しで上がってしまうことも。オンライン予選2回戦では先手番のシンキングタイム中に勝利宣言を行い、グロタンカットからの9枚出しで勝利。先日には13連勝*8(もりしーさん*9と並び最多タイ)、セット12連勝*10(2位タイ*11 )の記録を樹立。第2期雪華流星戦優勝、第2期HNP杯準優勝。

ブログ公開当初、マリンさんのセット12連勝を「最多」と紹介しましたが、改めて検証した結果、上記の通り2位タイの記録であることが判明いたしました。お詫びして訂正いたします。

  • 巽 「初出場でベスト8進出」 (Fブロック、1回戦・対yoko(2-0)、2回戦・対コロちゃんぬ(2-0))

近畿在住の大学生*12。今大会が初の大会参加どころか初の実戦というが、4枚出しをそつなく出し、負けなし・ペナルティなしで決勝大会進出を決めた。

追記(2021年9月22日): 巽さんはマリンさんの知り合いで、マリンさんの誘いを受けて大会にエントリーしたそうです。
marinnonikki.hatenablog.com

  • もるぴか 「運も実力の内」 (Gブロック、1回戦・対しじみぷっちょ(2-0)、2回戦・対3TK(2-1))

東京理科大学素数大富豪同好会会員。これまでの大会ではなかなか実績を挙げられていなかったが、オンライン予選2回戦ではマスプライム杯2020ベスト4の3TKさんを相手に初手HNPとKJQJの組み切りで勝利。第1回素数大富豪チャレンジカップ準優勝。

  • もりしー 「優勝しかしたことない」 (Hブロック、2回戦・対なきゃの(2-1))

素数大富豪で遊ぼう会in札幌」*13の幹事。あらゆる方面の素数に精通するほか、運が味方になることも多い。Mathpower杯(第2・3期)・マスパーティ杯・マスプライム杯2020とMPCを4連覇。マスプライム杯では運営を務める。プレーヤーとしては唯一のシードとして出場、2回戦のなきゃのさんとの対戦でフルセットになるも最終セットは先手で難なく組み切り勝利、2年連続の決勝大会進出。第1期蝉王戦ベスト4、第1期雪華流星戦準優勝。

次に決勝大会進出者同士の過去の対戦成績を見てみましょう。

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(「レート」は私が独自に計算している素数大富豪イロレーティングのレート、「勝数」「敗数」「勝率」はセット単位でみた通算の値)

5連覇のかかるもりしーさんに注目が集まりますが、対抗馬としてマリンさんを挙げないわけにはいかないでしょう。他の決勝大会進出者のうち対戦経験のある4名にはいずれも勝ち越しており*14、先日まで行われていた第2期HNP杯では決勝でカステラに敗れるまで予備予選から通じて全勝という充実ぶりです。マスプライム杯2020準優勝のOTTYさん、マスパーティ杯準優勝のnishimuraさんは実績・実力ともに申し分ないプレーヤー。ともにもりしーさんへのリベンジをかけた戦いになることでしょう。このような構図に他のプレーヤーがどれだけ割り込めるか、目が離せません。

決勝大会のルール

決勝大会のルールは開催要項に示されている通りです。オンラインでの開催となったため、オンライン予選と同様に素数大富豪オンラインでのルールに従います。実地での開催となった場合との違いは山札が尽きたときのペナルティの扱い(ペナルティは山札の枚数で打ち切る)・カードの流し方(流すべきカードが生じるたびにカードを順序を保ったまま山札の下に加える)*15・時間に関する規定(1勝負の制限時間は無し)です。さらに、オンライン予選と異なる点として1本目の先手・後手をあらかじめ決めることになりました(準々決勝ではトーナメント抽選時に決定、準決勝・決勝では試合開始前に決定)。

観戦方法

オンライン予選と同様に全試合の実況および解説がYouTube Liveにて配信されますので、そちらで観戦しましょう。オンライン予選とは異なり試合中のプレーヤーの手札が見られる仕様になるそうです。
(運営の方へ)決勝大会の直前で慌ただしい状況かと存じますがゲスト解説に呼んでいただけないでしょうか。9月19日に第2期HNP杯で優勝し2連覇達成、巽さんを除く決勝大会進出者7名と対戦経験あり、1000勝負以上の数譜・ログを所有し分析で得られた各種データを提供可能、ツイキャスで第2期HNP杯のほぼすべての試合を実況・解説(https://twitcasting.tv/graws188390/show)。現在の素数大富豪界の動向に最も詳しい自信があります。

お知らせ

素数大富豪オンラインで行われる素数大富豪トーナメント第3期蝉王戦*16およびサブ大会(第2回チャレンジカップ?)のエントリーが現在募集されています。第3期蝉王戦は9月下旬(予定)開幕、11~12月までかけてタイトル「蝉王」の座を争います(ちなみに現蝉王はカステラ)。サブ大会は10月下旬(予定)開幕、第3期蝉王戦にエントリーしていて、かつ、これまでの素数大富豪トーナメント(蝉王戦・雪華流星戦・HNP杯・チャレンジカップ)での通算勝率*17が5割以下のプレーヤーが対象です(これまでの素数大富豪トーナメントに参加したことがないプレーヤーも対象)。サブ大会のみのエントリーはできないので注意しましょう。大会へのエントリーは下記の参加フォームにて必要事項を入力して送信するだけです。
docs.google.com

*1:父はしじみぷっちょさん・母はきのこさん・妹はししとうさん。

*2:

twitter.com

*3:「HNC戦法」という名前は今私がつけました。勘で出した数が素数だったときのスラングHNP(Hello New Prime)に合わせたHNC(Hello New Composite)から。第2期HNP杯・予備予選(2021年8月21日・対なきゃのさん)では初手で131158=2*65579を出し上がり。

*4:出典:

twitter.com

*5:何をもって「正統」とするかは異論の余地がありそう。

*6:1勝負における最長手数(89手/2020年6月11日・第1期HNP杯・対二世さん)の記録保持者。

*7:私にはできませんでした(当時は全出し戦法が存在しなかった)。

*8:2021年3月17日の第2期雪華流星戦・ファイナル・対OTTYさんから9月18日の第2期HNP杯・準決勝・対nishimuraさんまで。

*9:2019年10月20日のマスパーティ杯(一般の部)・2回戦・対タカタ先生から2020年4月5日の第1期雪華流星戦・ファイナル・対マモさんまで。

*10:2021年7月9日の第2期HNP杯・予備予選・対OTTYさん・3本目から9月18日の第2期HNP杯・準決勝・対nishimuraさん・3本目まで。

*11:1位は完全数さんのセット13連勝(2020年7月25日・第2期蝉王戦・予選リーグ・対マモさんの2本目から9月12日・第2期蝉王戦・予選リーグ・対かいたいさんの1本目まで)、2位タイのもう1例はきのこさん(2020年9月8日・第2期蝉王戦・予選リーグ・対二世さんの1本目から9月26日・マスプライム杯2020・1回戦・対マリンさんの2本目まで)。

*12:北海道・関東を除く地方からのMPCベスト8進出者は第3期Mathpower杯以降初。

*13:現在はオンラインで不定期開催。

*14:対象をプレーヤー全体に広げてもマリンさんが負け越しているのはきのこさん(2勝3敗)、カステラ(4勝5敗)のみ、星を分けているのはかいたいさん(6勝6敗)のみ。

*15:このルールが戦略に生かせることがあります。たとえば山札がない状態でKKXQQJ|X=K→相手パス→A729[RR]と絵札を消費してから革命したい場合、XKKQQJ|X=Kと出せば相手がパスして手番が回ってきた際に山札の先頭がXになるのでそこでドローすればXを実質的に消費せずに革命できます。他には山札が少ない状態で相手がA729[RR]を出し革命状態になり、こちらが(合成数出し)カマトトで山札を回収したい際、山札をすべて回収してしまうと次の相手の手番のとき山札の先頭がAになり相手が有利になるため、素因数場の枚数を調整しペナルティを受けても山札が1~2枚残るようにして阻止しにいく場合があります(それでも相手にグロタンカットがあるとAを回収されることもありますが)。

*16:第1・2期は夏~秋の開催でしたが今年は試合進行の遅れもありこの時期になりました。

*17:具体的な算出方法は公開されていませんが勝敗は試合単位でカウントし、プレーオフは除いて計算するものと思われます。参考(ただし第2期雪華流星戦の途中まで)docs.google.com

【マスプライム杯2021】2回戦 nishimura-カステラ (自戦記)

前回の記事に引き続き、7月17日に開催された素数大富豪マスプライム杯2021の自戦記です。

2回戦はnishimuraさんとの対戦。nishimuraさんは素数大富豪FC2の制作者です。最近よく見かける全出しはあまり使いませんが、多枚出しも含め覚えている素数の量はトップクラスで、初手8・9枚出しも得意です。1回戦では二世さんにストレート勝ち。私との対戦は過去に4度あります:

  • 2018年10月7日 第3期Mathpower杯・準々決勝 カステラ3-2 nishimura

graws188390.hatenablog.com

  • 2019年7月6日 第1期蝉王戦・予選リーグカステラ2-1 nishimura

prime-meeting.hatenablog.com

  • 2020年4月4日 第1期雪華流星戦・ファイナル カステラ1-3 nishimura

twitter.com

  • 2020年7月5日 第1期HNP杯・決勝 カステラ3-1 nishimura

twitter.com

ただ、ここ1年は対戦の機会がなく*1、これまでと同様に来るのかはわかりません。

1本目(5:13:14~5:16:22) 動画

私の初期手札:(A256779TJQK)
先手なら57[GC]→9K6QA2TJで上がりだが、残念ながら後手。手札のバランスは良いが、相手が自信のある枚数で来る以上KTJやKTQJが通るとは思えない。

1. n:645A
2. カ:D(Q)9TJQ=QA2*5677K,P12
nishimuraさんはドローせず4枚出し。ブラフはありそうなので返そうと思うが何を返すか。ドロー(Q)してから考える。KTQJは温存するとして、952Aだと残りは(677Q)でわからない(実は詰んでいる)。652Aを残しての(779Q)での4枚出しや、(A257)を残して(679Q)での4枚出しはわからず(正解はそれぞれ97Q7、76Q9)。時間が迫ってきたのでカマトトに作戦変更。

3. n:9K6JXAA|X=Q#
nishimuraさんが残り手札をすべて出して上がり。当初の読みどおり初手の4枚出しはブラフだった。

組み切れていたらどうなったか分からないゲームを落としてしまった。

2本目(5:17:09~5:22:14) 動画

私の初期手札:(A233568TQQX)
(A25T)があるので~T=2*5*~Aの形の合成数出しを探すと3QT=2*5*3QAがあり、残りは(68X)。ブラフにはブラフを、ということで863→3QT=2*5*XQA|X=3で行くことに決めた。こんな思考をしていたらパスをして相手の手番にすることでシンキングタイムとするのを忘れてしまい注意を受ける。

1. カ:863
2. n:D,KTJ
3. カ:%
私のパスし忘れもあり通常よりもシンキングタイムが長くなった。そこでノータイムで863を出したが、ブラフを見破られたのかKTJを返される。私がこれに返すにはKをドローしてKQX|X=Kを出す他ないが、ブラフでいったからにはこれを継続することにドローせずパス。
現在の手札は(A235TQQX)なので2枚出しならQQ=2*X*3*TA|X=2→5、3枚出しなら予定どおり3QT=2*5*XQA|X=3、4枚出しなら5QQX|X=J→2T3A、5枚出しなら3QQTX|X=K→52Aと対応可能。

追記(2021年8月4日): 仮にドローしてKを引いていたらKQKどころかKQT=2*5*X3QA|X=Aで上がりでした。Aを引いてもXQT=2*5*A3QA|X=Kで上がり。自分からA・K・Xが各1枚しか見えておらず、nishimuraさんはKやXをこれ以上持っていなさそう(もし持っていたらKTJでなくKKJを出して私がKKJを出すのを阻止するため)に見えるのでドローしてもよかった場面でした。この可能性を指摘してくださったマリンさんにお礼申し上げます。

4. n:57[GC]

5. n:57[GC]

6. n:8877A#
nishimuraさんがそのまま上がり、決勝大会進出を決めた。

ブラフが失敗し、ストレート負けを喫した。

展開に恵まれなかったこともありますが、過去の対戦で最も「実力がなくて敗北した」ことを実感する対戦でした。
1本目は(A256779Q)を4枚出し素数2つに分けることができなかったのが最大の敗因です。一番わかりやすい65Q9(惨い肉)/7A27をはじめ9257/7Q6A、9767/52QAなど気づけるはずだった組み合わせは複数ありました。
2本目はそもそも絵札が4枚あり普通に出してもそこそこ強いのでnishimuraさん相手とはいえブラフより多枚出しのほうがよかったと思います。たとえば
85QQTXA3|X=T→6=2^3
82A3QQTX|X=J→653
6TQ3XQ5A|X=K→8=2^3
5T32QQXA|X=J→863
など(下2つは四つ子素数)がありますし、何なら昨年のマスプライム杯で覚えてなかったことで敗北した素数865QTXA3|X=J→Q23がありました。ドローすればバリエーションはさらに増え、9枚出しもできていたかもしれなかったので、非常にもったいないゲームでした。

さて、9月25日(土)に行われる決勝大会(オフライン)は横浜*2で開催されることになりました。新型コロナウイルス感染症感染防止の観点から、決勝大会に出場する8名と運営スタッフ以外は入場できませんが、YouTube Liveでの生配信および生解説がありますのでぜひ見ましょう。

P.S. マスプライム杯2年連続予選敗退の身ではありますが、素数大富豪大会の試合の解説など素数大富豪関連の仕事がありましたら私までご連絡ください。新型コロナウイルスのワクチンは8月中に2回接種が終わる予定です。

*1:2021年3月7日にPQ春の陣というイベントで対戦したくらい。

*2:マスパーティ杯(2019年10月)と同じ会場。

【マスプライム杯2021】1回戦 岩淵夕希-カステラ (自戦記)

7月17日に開催された素数大富豪マスプライム杯2021オンライン予選の自戦記です。2回戦(対nishimuraさん)と合わせて連投する予定なのでよろしくお願いいたします。

マスプライム杯は以前の記事で紹介した通り、2016年から2018年の「Mathpower杯」、2019年の「マスパーティ杯」の後継となる素数大富豪大会で、素数大富豪界で最大のものとなっています。
昨年に続き今年も新型コロナウイルス感染症の感染拡大の懸念から大人数での集会ができないため、「オンラインで予選を行い、勝ち残った8人と運営のみでオフラインの決勝トーナメントを行う」という形で開催することになりました。

オンライン予選は素数大富豪オンラインを使って行われました。参加者は素数大富豪オンラインにログインした後、運営に指定された部屋で対戦します。対戦はZoomミーティングによって参加者内で共有されるほか、参加しない観戦者に対してはYouTube Liveにて配信が行われました。なるべくオフラインの対戦に近い状態で行う(先手・後手を交互にもつ、1分間のシンキングタイムを設ける)ために手番の取り扱いに関して素数大富豪オンラインでの通常のゲーム進行とは異なる部分がありましたが、大きな混乱は起きませんでした*1

オンライン予選には31名が参加しました。各4人(Hブロックのみ3人)からなる8つのブロック(A~H)に分かれ、各ブロックのトーナメントを勝ち上がった8人が決勝トーナメントへの出場権を得ます。対戦カードは予選当日に発表され、私はCブロックに割り振られました。Cブロックの他のプレーヤーは以下の通りです:

ここまでは去年の自戦記とほぼ変わらないのですが、Mathpower杯・マスパーティ杯・マスプライム杯の変遷の経緯をいちいち書くのはさすがに面倒になってきたので、Mathpower杯・マスパーティ杯・マスプライム杯を総称する用語として「MPC」を導入します。「MPC」はこの記事に限らず、今後の記事においても使用する予定です。

nishimuraさん: 素数大富豪FC2の制作者。革命や全出しなどの派手な戦法はあまり使わないが、幅広い素数の知識や経験によって安定して好成績を収めている。素数大富豪大会にはせきゅーん杯(2018年1月)から参加。獲得タイトルは第1期蝉王(2019年7月~10月: オンライン)。第3期Mathpower杯(2018年10月)ベスト8・マスパーティ杯(一般の部)(2019年10月)準優勝・マスプライム杯2020(2020年9月・11月)ベスト8。私との対戦は過去に4度あり、セットによる通算成績は私の9勝7敗。第3期Mathpower杯では準々決勝で私と対戦した。
graws188390.hatenablog.com
二世さん: 素数大富豪の普及において最大の貢献をしているプレーヤー。素数大富豪普及協会副会長。マスプライム杯の運営を務める。593(コックさん)をはじめとする語呂素数をよく出すなど、素数大富豪を楽しむことを第一にプレーする。素数大富豪大会の初参加は第1期蝉王戦だが、MPCは今期が初。過去に私との対戦はない。
岩淵夕希さん: MPCに第1期Mathpower杯(2016年10月)からすべて参加している3人のうちのひとり*2素数を覚えることよりも素数大富豪の戦術の開発に力を入れているプレーヤー。過去に私との対戦はない。

nishimuraさんと二世さん、岩淵夕希さんと私がそれぞれ戦い、その勝者同士が対戦。その勝者が決勝トーナメントに進出します。

1本目(2:03:18~2:10:38) 動画

私の初期手札:(22566779TQQ)
1本目の先手は岩淵夕希さん。私の初期手札は偶数が多いうえにKやXもなく、このままでは戦えそうもない。カマトトしてから勝負かなと考えながらシンキングタイム終了。

1. 岩:37
2. カ:D(5),QQ=22*55*66*77*9T, P12
岩淵さんの初手は2枚出し。57を出せば手番はとれるものの、あとが続きそうにないので合成数出しカマトト。

3. 岩:9J
4. カ:D,KJ=3*A9*23
5. 岩:D,%
岩淵さんは再び2枚出しで残り7枚。KQ=2^5*4AやKK=K*TAの可能性は否定できていないが、カマトトとドローで手札が25枚ながら4がなく、A・K・Xが1枚ずつでKQの先出しはジョーカーを使う必要があり、先ほど同様あとが続かなさそう。もし岩淵さんがKQやKKをもっていたら負けは仕方がないとして、手札の消費も兼ねてKJの合成数出し。ただ、奇数を大量に使うのでそのあとの組みやすさを考えると単にQKでもよかったかもしれない。

6. カ:D,57[GC]

7. カ:D,57[GC]

8. カ:D,66523
9. 岩:88621, P5
KJの合成数出しで奇数を使ったので組み切りが難しい。グロタンカットで時間を稼ぐ。ドローで4, 4, Xと引いてさっき来いよと嘆く。偶数消費も兼ねて5枚出し。岩淵さんは残り8枚なのでドローして5枚出し→私が5枚出し→ドローして5枚出しという細いルートを防げばよく、それはJQQQJで達成できそう(都合よく絵札は引けないだろうと割り切った)。岩淵さんは5枚出しを失敗。

10. カ:D,8T49
11. 岩:8T61,P4
10手目、ドローで手札は(4489TTJJQQQKXX)。(4489)が詰んでることに注意すれば8T49を出すと4枚出しが返ってきた場合はKJQJ→X[IN]→4QQTX|X=J、返ってこない場合はKXXQQQJ|X=K|X=K→4TJで上がれる。

12. カ:KXXQQQJ|X=K|X=K
13. 岩:D,%
岩淵さんが4枚出しを失敗したため後者のルートを選択。

14. カ:4TJ#
残りを出して上がり。

KJの合成数出しは微妙な手ではあったが、先勝。

2本目(2:11:18~2:13:29) 動画

私の初期手札:(AAAA569TJKK)
Aが4枚あるのは珍しいが、先手でKKJがあるので659→KKJ→TAAAAでほぼ勝ち確定。

1. カ:659
2. 岩:D,963,P3

3. カ:KKJ
4. 岩:D,%

5. カ:TAAAA#
組み切りどおりに出して上がり、2回戦進出。

2戦通しての反省点はやはりKJのところでしょうか。QKでも相手に返される可能性は変わらないので、奇数を残したほうがよかったと思います。あとは何か「魅せる」プレーができなかったのが若干の心残り。

*1:規定に従わなかったことによる反則負けが1回発生したのみ。

*2:他の2人はキグロさん・タカタ先生。

素数大富豪1年分のデータを総括してみた(2020年度)

2019年7月の素数大富豪トーナメントの開始により通年で素数大富豪大会が行われるようになり今後も続きそうなので1年単位でデータを集計してみたくなりました*1。てことで実際にやってみましたという趣旨の記事です。

1年単位で素数大富豪のデータを分析するという観点では2018年にもりしーさんが素数大富豪で遊ぼう会in札幌(1回のみin北広島)で出た数についての記事があります。
prm9973.hatenablog.com
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基本情報

分析の対象は2020年度に行われた大会で、以下の5つです。

  • 第1期HNP杯(2020年4月~7月/62試合・139勝負)
  • 第2期蝉王戦(2020年7月~11月/77試合・201勝負)
  • 第1回チャレンジカップ(2020年7月~9月/14試合・36勝負)
  • マスプライム杯2020(2020年9月(オンライン予選)・11月(決勝大会)/31試合・78勝負)
  • 第2期雪華流星戦(2020年11月~2021年4月/67試合・205勝負)

合計: 251試合・659勝負

第1期HNP杯・第2期蝉王戦・第2期雪華流星戦については個別にデータ分析記事を書きました。
graws188390.hatenablog.com
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graws188390.hatenablog.com

行動データ

すでに以前の記事で総括していますが、改めて表とグラフに表しました。

f:id:graws188390:20210510184028p:plain
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どの大会でも概ね同じような割合になっていますが、初心者~中級者の参加者が多かった第1回チャレンジカップ・マスプライム杯2020では素数出しの割合が高く、グロタンカットやパスの割合が低くなりました。

出された数について

この1年で2回以上出されたすべての数を一覧にしました。量が多いので2分割になっております。

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f:id:graws188390:20210510184133p:plain

1位は断トツでグロタンカット57。2位は他を多少引き離してラマヌジャン革命1729。そして3位に3枚出し最大素数の131311と単独ジョーカーが入りました。以下、各枚数の最大クラスの素数合成数、種類の少ない1・2枚出し素数が続くということで、1年分をまとめて集計しても劇的な変化はありません(それはそう)。強いていえば1312=2^5*41や1313=13*101よりも下位に位置することが多かった2枚出し最大素数1213がこれらよりも上位の8位(48回)につけたことでしょうか。第1回チャレンジカップとマスプライム杯2020でそれぞれ14回ずつ出されたことでランクアップする結果となりました。
さらに下位に目を向けると偶数消費型の素数や多枚数(n≧5)のn枚2n桁素数、四つ子素数が続々と入ります。
表にない2枚出し素数のうち、73、131、313はそれぞれ1回出ています。31、71は1回も出ませんでした。せっかくなので、すべての1・2枚出しがそれぞれ何回出たのかを表にしました。(左が1枚目・上が2枚目。オレンジは素数、赤はグロタンカット)

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すべての欄が埋まることはあるのでしょうか*2

素数大富豪で出る数のインフレは2020年度も続き、京(10^16・17桁)以上の素数が延べ45回出されました。垓(10^20・21桁)以上が11回、𥝱(10^24・25桁)以上が3回、穣(10^28・29桁)以上は2回でした*3。例によって一覧にしました。

f:id:graws188390:20210510184229p:plain

HNP(Hello New Prime・勘出しで偶然素数だったときにいう)が多いですが、四つ子素数やn枚2n桁素数などこのサイズの素数を事前に覚えて出しているケースも頻繁に見受けられました。

先手・後手と勝率

素数大富豪が先手有利のゲームであることは以前からよく知られています。2018年にもりしーさんが素数大富豪 ver.4 ☆pro☆と500戦対戦した際は先手の勝率が69%(345-155)と先手有利の結果でした。2019年に私が行ったnishimuraさん・もりしーさんとの百本勝負では先手の勝率がそれぞれ67%(68-34)・65%(65-35)、同年のなきゃのさん対OTTYさんの百本勝負でも62%(62-38)ということでいずれも先手有利ということになりました。

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この1年での先手・後手の勝率をまとめました。実力差が大きいと上位者が先手・後手にかかわらず有利、低枚数主体の試合だと先手の有利性が少ない*4と考えられるので、予選・本戦に分けて集計しました。

予選・本戦の区別は以下の基準で行いました。
第1期HNP杯・第2期蝉王戦・第2期雪華流星戦: 予選リーグ(プレーオフを含む)を「予選」、それ以降の試合を「本戦」
第1回チャレンジカップ・マスプライム杯2020: トーナメントにおける準々決勝より下の試合を「予選」、準々決勝以上の試合を「本戦」

反則負け・(オンラインにおける)接続切れ・時間切れによる途中終了になった勝負は除きました。対象は以下の7勝負です:
第2期蝉王戦・予選 1勝負
マスプライム杯2020・予選 1勝負
マスプライム杯2020・本戦 2勝負
第2期雪華流星戦・予選 3勝負

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マスプライム杯2020・予選を除いたすべての区分で先手の方が勝率が高いという結果になりました。また、本戦では先手の勝率がさらに高くなり7割に達しました。「運も実力の内」とも言われますが、先手を得るというランダムな要素が勝敗に大きく影響してしまっています。この状況はさすがに公平性に欠けるので、対策を前向きに検討していく必要があるでしょう。
素数大富豪オンラインでは1勝負ごとにシステム上でランダムに先手・後手が決定されるため、パスを使って「2本目以降、先手・後手を交互に行う」を実現していたマスプライム杯2020以外の大会ではプレーヤーの間で先手・後手の割合にある程度の偏りが生じました。そこで、この1年で10勝負以上の対戦があったプレーヤー25名について、先手・後手ごとの勝率および先手率をまとめました。なお、先ほどは省いた途中終了の勝負も対象としております。

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先手率の偏りは統計的に有意なものではないと考えられます (ささらさんがちょうど上位5%相当の上振れ・でこぽんさんがちょうど下位5%相当の下振れ)。
全体の勝率と先手率の相関係数は.134で、素数大富豪の実力と先手率の間に相関はないと考えられます。

最後に

他にも調べてみたいことはいろいろありますが、ひとまずこれくらいで筆を置こうと思います。このデータをネタにまた記事を書くかと思うのでお楽しみに。

*1:この総括が何年続けられるか分からないけど。

*2:たとえば(2458X)と持っていて8X=2^4*5|X=0に気づいても出す人がいるのか?

*3:ちなみに兆(10^12・13桁)以上は231回。

*4:第1期~第3期Mathpower杯(2016年~2018年)では後手の方が勝率が高かった。

【第2期雪華流星戦】データ分析

昨年11月17日から素数大富豪オンラインで開催された素数大富豪トーナメント第2期雪華流星戦は4月30日に決勝が行われ、マリンさんが優勝しました。マスプライム杯2020に続いて2回目の大会参加であるマリンさんがタイトル獲得ということで驚きです。さて、恒例のデータ分析をしましたので、その結果を述べます。

基本情報

第2期雪華流星戦の概要を振り返ります。

  • 予選リーグ: 参加者20名(マモ第1期雪華流星を含む)を抽選で4つのリーグ(ゆき組・はな組・ながれ組・ほし組)に各5人ずつ振り分ける。各リーグ内で2本先取の総当たり戦を行う。勝数の多い順(同数の場合はセット勝率の高い順)に各リーグの上位3名がセミファイナル進出。ただし、現雪華流星が所属リーグにおいて3位以上になった場合、現雪華流星はセミファイナルを免除されファイナル進出。この場合、現雪華流星の所属リーグにおいて順位の繰り上げが行われ、進出が決定していない全参加者の中の最上位者が現雪華流星の所属リーグ3位としてセミファイナル進出。
  • プレーオフ: 勝数とセット勝率で順位が決まらないときは該当者で1本先取・総当たりのプレーオフを行い、順位を決定する。今大会ではプレーオフが行われる状況は発生しなかった。

マモ第1期雪華流星はゆき組において2位となりファイナル進出が決定。

  • セミファイナル: 進出者12名を事前の抽選で決定された4つの3人トーナメントに振り分け、3本先取の対戦を行う。各リーグの1位進出者はそれぞれのトーナメントにおいてシードされる。勝ち抜け者はファイナル進出。決定戦で敗れたプレーヤーは敗者復活戦へ。
  • 敗者復活戦: ファイナル進出決定戦で敗れた4名によるトーナメント。2本先取。勝ち抜け者1名がファイナル進出。
  • ファイナル: 現雪華流星・セミファイナル勝ち抜け者4名・敗者復活戦勝ち抜け者1名の合計6名による3本先取の総当たり戦を行い、勝数の多い順(同数の場合はセット勝率の高い順)に上位2名が決勝進出。
  • 決勝: 進出者2名による3本先取。

分析対象は第2期雪華流星戦の全試合(67試合・205勝負)です。

  • 予選リーグ(40試合・105勝負)
  • セミファイナル(8試合・33勝負)
  • 敗者復活戦(3試合・7勝負)
  • ファイナル(15試合・56勝負)
  • 決勝(1試合・4勝負)

第1期HNP杯*1・第2期蝉王戦との比較のため、行動データ・出された数・プレーヤーごとの集計の3つの観点から見ていきます。第1期HNP杯・第2期蝉王戦のデータ分析はこちら。

graws188390.hatenablog.com
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行動データ

素数出しやグロタンカット・ペナルティなどの割合を比較します。比較対象は以下の通り。
第3期Mathpower杯(2018年10月)/マスパーティ杯・一般の部(2019年10月)/第1期HNP杯(2020年4月~7月)/マスプライム杯2020(2020年9月(オンライン予選)・11月(決勝大会))*2/第2期蝉王戦(2020年7月~11月)

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第1期HNP杯以降の傾向が続いています。素数出しの割合はわずかながら過去最小を更新。全出し戦略が今後も隆盛を誇るなら、その割合はもう少し小さくなりそうです。収束値の予想として46%がはっきりと見えてきました(おぼろげながら浮かんできたわけではない)。
グロタンカットは過去最高の割合を記録。これは新たなトレンドなのか、それとも元々グロタンカットの多いプレーヤー(かいたいさんなど)が活躍した影響なのか、今後注視していきたいと思います。
ラマヌジャン革命は若干減少、単独ジョーカー・合成数出しは横ばいとなりました。
ペナルティは過去最高、パスは過去最低となりました。返す素数合成数がない状況でもカマトトできる状況ならカマトトしたり、超多枚出しに対して勘出しでも対抗する場面が増え、安易にパスすることが少なくなりました。
また、今大会は1勝負当たりの平均手数が9.1手・中央値が6手と第1期HNP杯の11.6手・7手、第2期蝉王戦の10.7手・7手と比べて少なくなりました。極端に長手数の勝負がなかった(最長でも40手)こと、相全出しになっても多枚数出しで早期決着することも多かったことが理由です。

出された数について

複数回出された数を一覧にしました。

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グロタンカット57は不動の1位。そして2位には3枚出し最大素数の131311がランクインしました。平常時でも十分強いことは言うまでもないですが、相全出しの展開になっても、それを上回る合成数131312=2^4*29*283が揃いにくいことを考えると他の枚数の最大素数と比べても強い数です。
以下、単独ジョーカーX、ラマヌジャン革命1729、各枚数の最大クラスの素数合成数、もともと種類が少ない1・2枚出しが続くのは今までどおりですが、6位(12回)にそのどれにも当てはまらない8121011が入りました。第1期HNP杯では2回、第2期蝉王戦では3回でしたのでこれは驚きです。理由として次が考えられます。

  • 相全出しの後手札にoverKJQJがありそれを勝負手に4枚出しするとき、8121011を出して相手に絵札を出させoverKJQJ返しのリスクを減らす。
  • 逆に相手が4枚出しをしてoverKJQJが控えていそうなときに、先に8121011を出して4枚出しラリーによる相手の手札消費を食い止める。
  • 812101や8121013も素数であり、OTTYさんが81210から始まる素数をよく出すなど、知名度の高い素数である。

どの理由でも8121011は偶数消費型素数であること(overKJQJで残ったカードで作れる可能性が高い)、Kを使わないこと(Kは勝負手に使うことが多い、Kがない劣勢の状況でも揃っている可能性が高い)が効いています。とくにKを使わない4枚出し素数の中では12121211の次に大きいのでoverKJQJが絡む場面では出しやすい素数となります。

overKJQJは表にある13131112=2^3*1641389, 13131210=2*3*5*167*2621, 13131312=2^4*3*273569(各3回), 13131113=29*452797(2回)のほか, 13111312=2^4*819457, 13131011=31*423581が各1回の合計13回出されました。overKJQJ全体の頻度としては第2期蝉王戦とほぼ同じですが、13131312が突出して多かった第2期蝉王戦と比べると少しバリエーションが増えました。また、overKKQKJとして1313121312=2^5*3^2*19*31*7741が1回出されました。

1回でも出したプレーヤーの人数別の一覧は以下の通りです。

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各枚数の最大クラスの素数合成数や偶数消費型素数が多いことは今までどおりです。121012109(ドゥーさん2回・かいたいさん1回)は偶数消費型素数ですが、(TTQQX)の5枚で出せる唯一の素数です。455668483は偶数消費の四つ子素数(nishimuraさん・なきゃのさん各1回)。822111312106459も四つ子素数(しじみぷっちょさん・きのこさん各1回)。812101113548629(OTTYさん・なきゃのさん各1回)は四つ子素数ではありませんが末尾の9は3でも13でも素数になります*3。こうして見ると、同好会や家族といった集団で共有されている素数があるように思われます。

プレーヤーごとの集計

今回はファイナルに進出したマリンさん・かいたいさん・nishimuraさん・OTTYさん・マモさん・なきゃのさんの6人のプレースタイルを比較します(順序は最終順位に従う)。

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(※ 枚数クラスごとの”○○/△△”は場にその枚数クラスに属する数が出されたのが△△回で、そのうち正しく出されたものが○○回であったことを表します。合成数出しカマトトは場の数の属する枚数クラスに計上しました。)
全体の傾向としては11・12枚クラスの初手全出しやそれ以上の枚数クラスの勘出しの増加が挙げられます。7~9枚クラスは初手や相全出し後の枚数のチョイスで好まれたのか割合が高くなっています。8枚クラスが凹んでいるのはかいたいさんの影響と考えられます。
プレーヤーごとには次のような特徴が認められます。

  • マリンさん: 初手全出しからのoverKJQJ狙いが主戦法。そのため11枚クラス以上の出す回数が多い。7~10枚は少なめだが四つ子素数の56643289や86410から始まる素数を意図的に出しているので策がまったくないわけではない様子。11枚クラスで出した素数はいずれもHNPで、セミファイナルの対カステラ戦、決勝の対かいたい戦とここぞの場面で決めている。
  • かいたいさん: 第1期HNP杯では多枚数出し、第2期蝉王戦ではoverKJQJとプレースタイルが変化していたが、今大会では両者をミックスしてきた。overKJQJが3回は今大会最多。7・9枚クラスは多く出している一方8枚クラスの成功0の理由は謎である(第2期蝉王戦では4/5)。
  • nishimuraさん: 枚数別にみて満遍なく出している。無理やりな初手全出しはしないタイプで、するのはよほど初期手札が悪いときか相手に先に全出しされたときくらいか。12枚クラス以上で記録した素数(654323456789, 11123345678999, 11123456788999, 626289854312101013)はすべて知っているものと思われる*4
  • OTTYさん: 相手に全出しされて迎えた後手ではほぼ全出しする他、途中でも全出しを仕掛けることが多い。今大会の最大素数を記録。一方でかつて「7枚出しの名手」*5と呼ばれたように7枚クラスまではコンスタントに繰り出してくる。合成数出し11回はマリンさんと並んで最多タイ。ラマヌジャン革命5回は最多。
  • マモさん: 全出しは相手から仕掛けられたときにする場合が多く、自分からすることは少ない。初手は3・4枚出しが多い堅実派。しかし相全出しのときには途中で全出しに踏み切ることも多い。
  • なきゃのさん: 以前よりも初手全出しが増えたり、11枚クラスのQTJK素数を3回記録するなど、多枚出し寄りにシフトしてきたか。一方でここぞの場面でのペナルティにより試合を落とすこともあり、ペナルティの割合は3割に達した。

グロタンカットを最も多く出した人”グロタンカッター”はマリンさん(27回)、ラマヌジャン革命を最も多く出した人”革命家”はOTTYさん(5回)、単独ジョーカーを最も多く出した人”道化師”はnishimuraさん・OTTYさん(各4回)でした。

まとめ

今大会は全出し主体のマリンさん・かいたいさんがそれぞれ優勝・準優勝ということで、全出し戦略の強さが示された結果となりました。この2名の活躍もあってか全体の傾向としても全出しの影響が一段と強く出ました。今後さらに全出し戦略が優勢になっていくのか、はたまた別の戦略が登場するのか、第2期HNP杯はどうなるのでしょう*6

なお第2期HNP杯は現在参加者募集中です。応募フォームはこちら。
docs.google.com

おまけ

素数大富豪イロレーティングを第2期雪華流星戦の分まで計算いたしました。結果は以下の通りです。イロレーティングについてはこちらの記事を参照。

graws188390.hatenablog.com


f:id:graws188390:20210503145724p:plain

(twitterに上げた画像では「第2期雪華流星戦予選終了時」となっていたため修正しました。)

f:id:graws188390:20210503145738p:plain

*1:第2期HNP杯の開催が決定しましたので、今後は2020年のHNP杯を「第1期HNP杯」と記すことにします。

*2:第2期蝉王戦のデータ分析ではオンライン予選のみを参照していたので値が異なっております。

*3:812101113548623はOTTYさんが1回出しています。また、並びが似ている812101113268457はなきゃのさんが1回出しています。

*4:このうち11123345678999と11123456788999は麻雀の役満九蓮宝燈」の和了形の素数

*5:まだ7枚出しが珍しかった2018年頃の二つ名。7枚が普通の枚数として扱われるようになった現在ではそう呼ばれることはなくなっている。

*6:そういえば第2期HNP杯は私・カステラにとって初めてのディフェンディングチャンピオンとしての大会ですね(今までの優勝は単発の大会だったので)。

「全出し」との付き合い方

この記事は素数大富豪Advent Calendar 2020の21日目の記事です。
adventar.org

昨日はマリンさんのoverKJQJとカードカウンティング - マリンの日記【素数大富豪】でした。後述しますがoverKJQJはその強さがために普及した現在では逆に使用が控えられている戦術です(「核抑止力」みたいなものか?)。overKJQJ復調のきっかけとなるのでしょうか。

素数大富豪はその名の通り素数を場に出していく大富豪ですが、「素数であると確証がもてない数でも場に出してよい。もし素数でなかった場合には出したカードを手札に戻し、ペナルティ(出した枚数だけ山札からカードを引く)を受ける」というルールがあります。ですから、初手でいきなり手札をすべて(11枚、ドローすると12枚)出し、それが素数であれば相手に何もさせることなく上がることができます(これを一発上がり・ワンターンキル・天和などといいます)。
もちろん、数が大きくなると素数になりにくくなるので一発上がりを狙っていきなり全出しするのはあまりおすすめしませんが……

……と笑えていたのも2018年までの話。今や全出しは大会の上位入賞のためには必須のアイテムとなりました。一発上がりの確率が突如として上がったわけではないのになぜ全出しが急増したのか、それは全出しが有用な戦術として利用できることが発見され、それが普及したからです。本稿では戦術面から見た「全出し」について述べます。

※以下、用語を濫用し全出しして失敗(素数でない)の場合も単に「全出し」と書く場合があります。

「全出し」成功の確率

初手全出しのメリットとして最初に思いつくのは一発上がりの可能性があることです。では一発上がりの確率はどれくらいあるのでしょうか。経験的には1割程度と感じます。
実はまだ2枚出しがメジャーな戦術であった2016年にmattyuuさんが調べています。
mattyuu.hatenadiary.com
この記事ではジョーカーを除いたトランプ52枚から無作為に N枚( 1 \le N \le 52)をとって並べたときにそれが素数である確率を各 Nに対して100万回のシミュレーションによって求めています。それによると11枚では3.63%、12枚では3.32%だそうです。思ったより低い値ですが、これはカードが無作為に選ばれているためカードを並べて得られる数に容易に判定できる2・3・5の倍数が含まれているからです。2・3・5の倍数を除くとすると、試行全体のうち \frac{6}{13} \cdot \frac{2}{3} = \frac{4}{13}が有効(2・3・5の倍数でない)であると期待できます。上の結果をこれで割ると11枚では11.8%、12枚では10.8%となり、経験的にも妥当な値です*1。実戦では「絵札が多ければ全出し以外の作戦をとる」*2「2・3・5の倍数以外の倍数判定もする(ほかの素数でも割れないようにカードを並べ替える)」「ジョーカーがある場合素数になりそうな数を指定することができる」「グロタンカットがある場合先にグロタンカットをして枚数を減らすことができる」などシミュレーションの状況とは異なる点がありますが、初手全出し成功の確率は8~10回に1回(10~12.5%)といえそうです。

追記(2021年1月7日):
2・3・5の倍数を除くときの試行が有効である確率を(正整数全体のうち30と互いに素なものの割合とみて)4/15としていましたが、トランプの並び替えで整数を得るのでこれは不適当でした。最下位の1枚はA・3・7・9・J・Kのいずれかでかつ3の倍数でない場合なので上記のほうがより妥当です(厳密にはこの2つの事象が独立でなかったり、3の倍数でない確率が正確に2/3というわけではないが無視した)。併せて11枚・12枚での全出し成功期待確率も修正いたしました。

第2期蝉王戦(2020年7月~11月)での実績*3を見てみると、全201勝負のうち「先手」が「初手」に全出しをしたのは72回あり、全出し成功は7回(ただし、本来の先手が時間切れで強制パスとなった直後の後手も「先手」とみなし、グロタンカットを何回か出した直後の手も「初手」とみなした)。場に何もない状態で手番が回ってきた「後手」が81回(「先手」の初手全出しで失敗した65回と全出し以外で失敗した16回)あり、そのうち全出ししたのは47回、全出し成功は6回でした。まとめると初期手札(ドローとグロタンカットをしたものも含む)からの全出しは119回、うち成功は13回(成功率10.9%)でした。どうやら実戦でもシミュレーションで得られた確率とほぼ同じ確率で全出し成功が起こるようです。

「全出し」その他のメリット・デメリット

2019年以降全出しが急増したのは全出しに上記以外のメリットが見出され、戦術のひとつとして利用されるようになったからでした。ここで全出しのメリット・デメリットを列挙してみましょう。
メリット

  • 即座に上がれる可能性がある(前述)
  • 手札の増強が図れる 全出しが失敗したときは出した枚数だけ山札を引くペナルティが課せられますが、それによって大量の絵札が引ければ相手の勝負手を潰せる可能性があります。4枚出し最大素数のKJQJを上回る合成数(overKJQJ、通称「お化け」)がその例です。また、枚数の多さで相手を封じる戦法は対策を講じていないプレーヤーに対してはその効果は絶大です(いわゆる「初心者殺し」の戦術なので使う相手を選びましょう)。
  • 相手の作戦を妨害できる 後手で初期手札にKJQJがあったとしましょう。先手が全出しに失敗してペナルティを受けたとします。直後の手番に、実質先手と思って4枚出しすると、手札の枚数が倍になった相手にoverKJQJで返り討ちにあう可能性が高いです。このため初手全出し直後の後手は4枚出しが出しにくくなります。他にはKQ=2^5*4Aが勝負手の2枚出し(KK=K*TAがある)やKKJが勝負手の3枚出し(KKQ=2^4*29*283がある)、KKQTJが勝負手の5枚出し(KKQKJがある)なども出しにくくなります。このように全出しして手札が増えたという結果自体によって相手は順当な戦法がとれなくなります。
  • 直前に出たカードを回収できる お互いに強力な数を出し合って手番を得たものの残り手札が多く即座に上がれそうもないとき、実は全出しのチャンスです。たとえ失敗して山札を引くことになっても場に流れたばかりのカードを回収することができます。自分と相手の勝負手を両方手に入れることができたならば勝勢でしょう。

デメリット

  • 相手に手番がまわる 全出しの最大のデメリットは相手に手番をまわしてしまうことです。相手にも全出しするチャンスがあるので(全出しによって作戦を妨害された結果仕方なく全出しすることはよくあります)それで上がられてしまったり、順当に出していれば防げていた上がりを誘発することもあります*4。出し合いのラリーを制した直後の手番で全出しし山札を回収すると盤石であることが多いですが、手番が相手に渡ってしまうのでそこから上がられてしまうこともまったくないわけではありません*5
  • 相手に手札を見せてしまう 全出しはたとえ故意にペナルティを受けようとする(カマトト)場合でも場には出さなければなりませんので、そのときの手札は公開されます。たとえ初手の全出しだとしても、相手は手札の半分を知ることができるのでそれを利用される可能性があります。たとえば、初手全出し後の後手は順当な戦法がとりづらいと述べましたがKKQ=2^4*29*283については揃う確率が低い(24枚でも揃う可能性が2割程度、一方KK=K*TA(KK=A3*TA)は6割、overKJQJは8割程度*6 )ので、さらに全出しで公開された手札に2・K・Xが少なければ、KKQがある確率はさらに低くなるので揃ってないと踏んで3枚出しをされる場合があります。KKQが揃っていない場合、先にKKJを出せば手番は得るもののKを2枚失って手札が弱体化しますし(とはいえ革命したり、枚数で押し切るなど依然として先手有利なことが多い)、KKQを狙ってさらにカマトトしてもブラフに対応できないということもあります。
  • 場が白ける可能性がある これは戦術そのもののデメリットではないのですがここで触れておきます。全出しは手札をすべて無くすという素数大富豪の勝利条件から自ら遠ざかる行為であり、一見すると無気力であるようにも思われます*7。もちろん、これまで述べたように全出しは有効な戦術ではありますがその有効性を理解するのは(全出しに慣れたプレーヤーからすると)意外とハードルが高いようです*8。ましてや、全出しを戦術として採り入れるには大量の手札を捌ききるための素数の知識が必要となるのでそのハードルはさらに高くなります。対戦相手が全出しを使いこなせるほど素数を覚えていない場合は全出し側が枚数と数の大きさで圧倒してしまう展開となり場が興ざめしてしまいます。勝利することを必ずしも目的としないエキシビションや初心者と遊ぶときには使わないのが無難です。その場合の具体的な対戦の心得はOTTYさんの記事を参照。

otty8121013.hatenadiary.jp

全出しのタイミング

全出しはさまざまな場面でその効果が期待できますが、上で述べたようにデメリットも存在しますので、むやみやたらに出すものではないでしょう。ここでは全出しを出すタイミングとして私なりの基準を紹介いたします。

  • 先手で初期手札がよくない・組み切れないとき

初期手札がよいかよくないかの判断基準は複数ありますが概ね次の条件のいずれかを満たせば「よい」と判断し通常どおり出します。

  • 絵札4枚以上。5枚以上だとなおよい。(絵札攻勢に出る)
  • KQ=2^5*4A、KK=K*TAがある。(それを勝負手に2枚出し)
  • 知っている多枚出し素数*9があり、かつ、それを除いたカードで即座に上がれる。(多枚出し素数から出す。たまに多枚出しでないほうから出して相手にカマトトさせるブラフもある)

そうでないとき、または上の条件を満たしても組み切れないとき(偶数が極端に多いときなど)は中途半端に攻めたところで返り討ちに遭う可能性が高いので潔く全出しします。初期手札でリードされていると感じたら別の観点(枚数)で優位をとりましょう。

  • 後手で相手が初手全出ししてきたとき

先手が初手全出ししたときの後手の対応の仕方は初期手札が勝ち確の手札でない限りこちらも全出しするのが無難です*10。私はお互いに全出しして始まる展開を「相全出し」と呼んでいます。先手の全出しで見えた初期手札に絵札が少なくてもペナルティで絵札をたくさん引いている可能性は十分にありますし、生半可な勝負手では返り討ちからの枚数攻勢(((相手の手札の枚数)+2枚以上の素数合成数を出せば、相手はドローしても枚数が足りないため確実に手番を維持しながら手札を消費できます。))で何もできないまま負ける場合も多々あります。

  • 勝負手を出し合った結果手番を得たとき

互いに絵札を固めた素数(革命時ならAから始まる素数)を出し合って手番を得たとしても、二の矢が放てない場合があります。元から山札が少ない場合には全出しすることで先ほど流れたばかりのカードを回収することができます。お互いに手番をとろうとして出したカードがそのまま手札になるので戦力は出す前以上に上がります。と同時に相手に引き戻されることも防げます。これを応用した戦術として、最初から手番をとれそうな枚数で出して相手に強いカードを出させてから回収する方法があります。デメリットは全出しした直後は相手に手番が回るため、そこで即座に上がられる可能性があることです。

全出し後の戦略

全出しはそれが素数でなければペナルティで手札が倍増するのでそれを消費するのはなかなか大変です。こうした状況での戦略は発展途上の最中ですが、現時点での最前線をまとめました。
実際にどのような数が出されるかはプレーヤーによって多種多様であり一概に述べることはできませんが、先日3TKさんが覚えた素数を紹介していましたのでその記事が参考になるかと思います。
hana3101382283.hatenablog.com

  • over系

overKJQJなど各枚数の最大素数を上回る合成数出しを勝負手に据えた戦法。特に4枚出し(overKJQJ)はバリエーションが豊富で揃いやすい。しかしoverKJQJで一度に消費できるのは10~14枚が多く24枚からだとそれ以外のカードが多く残るためそれらの出し方に注意しなければならない、相全出しの後お互いにoverKJQJがあるときはoverKJQJの打ち合いになるなど難しい点もあります。HNP杯(2020年4月~7月)ではよく見られましたが、それ以降の大会ではお互いに牽制しあった結果からかoverKJQJが避けられるようになりました。

  • 6枚出しラリー・7枚出しラリー

通常の3枚出しラリーを倍の枚数でするもの。多枚数出しが増えたとはいえ後述の「8・8・8」がいつでもできるほどのプレーヤーは現時点(2020年12月)ではいないため、ラリーの採用率は高い。5枚以下だとover系の可能性があるため6枚以上*11

  • 8・8・8

いわゆる「4・4・3」を倍の枚数でするもの。さすがに8枚出し3回は難易度が高いが、グロタンカットを挟んだり、9・9・6にしたりなど戦略の柔軟性は高い。相全出しで始まったのに10手以内で終わったりすることも多い。

  • 超多枚出し

枚数が極端に多い素数を出す。相手がそこまで巨大な素数を知らなければ絵札が潤沢にあっても勘出ししかできないため成功率は高い。大会で出した際のインパクトが大きい*12。概ね13枚以上になり、20枚を超えることもある。

  • 革命

AやXが多いときや、相手にたくさん絵札がありそうなときに使用される。over系が使えなくなるため、手札が劣勢のときに革命を仕掛ける場合がある。詳細は明日のOTTYさんの記事で詳しく述べられると思います。

全出しをしないという選択*13

最近は先手で初期手札がよくなかったら即全出し、続いて後手も全出しという「相全出し」が増えましたし、大会では「全出し」党*14が上位に名を連ねます(全出しを使いこなすにはそれ相応に素数の知識・経験量が要るのでそれはそう)。ここでは敢えて流行に逆らって全出しを使わない戦術を紹介します。

  • 6・6作戦

先手で使う戦術。1枚ドローして12枚にしてから6枚出し、手札に6枚残す。後手はそれなりに強い素数でないとこちらに残りを出されて上がられる可能性があるので絵札を多く使った素数出しや勘出しをせざるを得ず、仮に手番をとっても後が続けられない可能性もあります。後手側の心理を利用すると、先手で初期手札に絵札が少なくても1枚ドローしてから6枚出しすることで後手に必要以上に絵札を使わせたり、場合によってはそのまま上がれることもあります。6枚9・10桁素数を覚えておくとここで役に立ちます。

  • 後手3枚出し

先手が全出しした直後の後手が使える戦術。3枚出しをしてこちらにKKJがあるように思わせる(KKJはあってもなくてもよい)。もしKKQがなければ先手は先にKKJを出そうとするはず。全出しして手札が24枚になってもKKQ=2^4*29*283が揃う確率はそこまで高くないので先手が早々にKKJを出すことが多い。先手は手札が多いながらも主戦力のKを2枚失い詰むはず……というのが狙いだが、革命されたり枚数攻勢で潰されることも多い。

まとめ

全出しはもともとは一発逆転の秘策としてある種のエンターテインメントの側面もありましたが、現在では立派な戦術のひとつとして大会で上位を目指すプレーヤーにとっては必須のものとなりました。しかし、全出しのタイミングや全出し以降の手札の処理の仕方は個々のプレーヤーが経験に基づいて行っているのが実情であり、新たに身につけようとするプレーヤーや観戦者にとってはわかりづらい部分があります。全出しはまだまだ発展の余地が大きく、また私個人の主観に基づく部分も多いためこれが全出し戦略の完全版であるとは到底思えませんが、現時点での全出しをある程度は文字化できたかと考えております。まもなく新しい年を迎えますが、来年の素数大富豪はどのような進化をするのでしょうか*15。この記事を全面的に書き換えないといけなくなるかも?

明日の素数大富豪Advent Calendar 2020の担当はOTTYさんです。6日目の二世さんの記事ラマヌジャン革命の成長 - にせいの日記では大会運営者の立場からラマヌジャン革命が戦術として採り入れられ始めていることが示唆されました。今度はプレーヤーの立場からラマヌジャン革命について語られるということで注目です。

*1:mattyuuさんの記事にも2・3・5の倍数を除いたときの確率のグラフがありますが、それを参照しても11・12枚での確率が1割強であることがわかります。

*2:すなわち、実戦で全出しするときの数は無作為のときよりも小さくなりやすいから素数になる確率が上がる(と考えられる)。

*3:全出しかどうかは素数大富豪オンラインのログで判断しましたが、A2もQも同じように見える(どちらも「12」と表示される)などで、取り違いの可能性は多分にあります。また明らかに素数でない全出し(偶数や3の倍数など)もカウントしています。

*4:たとえば後手の初期手札がKK=A3*TAと5枚5桁素数の場合。先手が2枚以外の枚数で出せていれば先手有利な展開になるところ、全出しで失敗すると相手が上がってしまう。

*5:実戦例としてマスプライム杯2020オンライン予選・2回戦私対はちさんの1本目。graws188390.hatenablog.com

*6:nishimuraさん制作の素数大富豪シミュレーションを利用しました。それぞれKKJ、KQ=2^5*4A、KJQJを除いた残りから無作為に24枚カードを選んだときにKKQ、KK、overKJQJが含まれる確率。

*7:合成数出しカマトトが台頭してきた2019年後半にはルール改正の動きがあり、有識者会議も開かれました。

*8:「オセロ(リバーシ)」は終局時の自分の石の多い方が勝利となるゲームですが、序中盤では自分の石が少ない方が有利とされています。石が少ないほうが選択できる指し手が多く場を支配できるからです。素数大富豪の全出しはオセロ(リバーシ)における石をむやみやたらに増やさない戦術に相当するといえるでしょう。

*9:ここでの「多枚出し素数」が何枚かは相手に依ります。現在のトップレベルであれば9枚以上か12桁以上の8枚出しはほしいところ。

*10:最近は「素数大富豪は初期手札24枚」「ここまでテンプレ」などといわれます。

*11:6枚以上でも合成数出しの可能性はあるが、滅多に見ない。

*12:最近だとマスプライム杯2020決勝大会(2020年11月)でOTTYさんが出した8QTJKQ3456789AA2359QT7(22枚29桁)。

*13:タイトルはtsujimotterさんの記事のインスパイア。tsujimotter.hatenablog.com

*14:ここでは誰とは明言しませんが。

*15:2021=43*47なので私は合成数出しの年にしたいと勝手に思っております。