初代素数王の備忘録

KA4T6X|X=9(カステラくん)は素数。

【第3期Mathpower杯】準々決勝-1 もりしー-ぶっち

大変お待たせいたしました。今回より準々決勝に入ります。2回戦までは2本先取でしたが、準々決勝から3本先取になります。白熱した試合が増えますね。
1試合目はもりしーさんとぶっちさんという顔合わせ。もりしーさんは前期Mathpower杯覇者。2回戦(vsくじらさん)の様子は以前書きました。ぶっちさんは第1期ベスト4の古豪。今期はシードで2回戦でいとうさんに勝利しての準々決勝進出です。なおこの試合から素数判定員が変わっております。じゃんけんによりぶっちさんが1本目の先手となりました。

1本目(15:02:48~15:12:51*1 )

初期手札 ぶ:(A446778TTKX) も:(A2567899QQQ)
ぶっちさんは絵札4枚(ジョーカーを含む)で悪くはないですが3,4枚出しでは決定的な勝負手になりそうな素数はつくれず攻撃力がない印象。もりしーさんの初期手札はQが3枚あることがカギとなりそうです。Qは2,3枚出しでは素数のバリエーションが少なく使いづらいカードですが、4枚出し以上では絵札としてその威力を十分に発揮できます。先手であれば即座に多枚出ししたいところですが今は後手。ぶっちさんが少ない枚数で出し続ければQが「お荷物」になります。

1.ぶ:647
2.も:D(4)658,P(QKX)
ぶっちさんの1手目は647。64XはX=A,3,7で素数になる三つ子素数で3枚出しの中では使いやすい・覚えやすい素数です。「むじな」で通じるらしい。対するもりしーさんはドローの後658。初期手札が悪いと踏んだのかカマトトに出ました。そして4枚目のQ、K、ジョーカーを手に入れます。

3.ぶ:D(3)47
4.も:D(5)57[GC]
ぶっちさんは47を出します。2枚出しでは57より小さい素数は出さないほうがよいです。というのは57を出されるとグロタンカットで場が流れ、相手は絵札を消費することなく親になってしまうからです*2。そのため59,6A,64=2^6など57より少し大きい2枚出しが好まれて出されます。もりしーさんは5,7を1枚ずつ持っていますが5は他の手札数枚とともに左側に寄せ大物手の1枚として使う様子で、57を出すかは何とも言えない状況です。ドローするとなんと5を引いてきました。これで57を出せ、さらに組んだ手札を崩さずに済みました。
4手目終了時の両者の手札 ぶ:(A38TTKX)(残7枚) も:(A2456899QQQQKX)(残14枚)

5.も:D(9)9629
6.ぶ:8TTK,P(237J)
もりしーさんはドローして9。Q・4枚に続いて9も3枚となりました。9629(黒肉)を出します。前の試合の8629(ハム肉)もそうですが「~肉」で終わる語呂合わせ素数はたくさんあります。まさに飯テロ。ちなみにもりしーさんの手札右側の(49QK)は4KQ9と並べれば「鹿肉(4KA29)」と読める素数になります。ぶっちさんが出したのは8TTK。残り手札は(A3X)で8TTKで勝負に出たようです。しかしこれは合成数(8101013=31*261323)。再びもりしーさんの手番になります。

7.も:X5QQQ8A|X=3
8.ぶ:%
もりしーさんが満を持して出したのはX5QQQ8A|X=3。35億!*3ぶっちさんは時間ギリギリでA3T2T8Kを出しますが場の3512121281よりも小さいため出すことは認められず強制的にパスとなります。
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9.も:9Q4K#
最後にもりしーさんが出したのは9Q4K。この4枚で出せる最大の素数で上がりとなりました。

35億素数が綺麗に決まりもりしーさんが1本目を取りました。

2本目(15:13:21~15:29:48)

初期手札 ぶ:(A22447789JX) も:(33455667799)
ぶっちさんの初期手札は絵札がJ,ジョーカーの2枚と少なめですがラマヌジャン革命A729が揃っています。もしこれを出してもりしーさんがパスしたとすると残り手札は(24478JX)。ここからたとえば2→X[IN]→7448J*4という出し方が考えられます。もりしーさんはなんと絵札ゼロ。なお初期手札11枚に絵札(T,J,Q,K,ジョーカー)が1枚も含まれない確率は約0.63%(160回に1回程度)でなかなか珍しい。革命時に強いAや2も手札になく、いきなりピンチといった状況。
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1.ぶ:D(6)A6=2^4
2.も:D(T)57[GC]
ぶっちさんはシンキングタイムが終わるとすぐにドロー。6を引きます。その6を使ってA6=2^4の合成数出しです。念のため合成数出しについて補足しておきますと、素因数場で指数出しを使う際、底はもちろん素数でなければなりませんが指数は2以上であれば素数でなくてもOKです(今回の場合は4)。また指数部分をさらに冪乗で出すこともできますが、その場合は右から計算します(たとえば2^3^2は2^(3^2)=2^9=512であって(2^3)^2=8^2=64ではない)。ぶっちさんはこれで手札を4枚消費しましたが場はA6なので1本目と同様グロタンカットされる可能性があります。もりしーさんはドローの結果、絵札Tを引きます。少しの時間考えてから57を出しましたが、グロタンカットで手番を取ったあとの戦略を練るのに時間を使ったようです。

3.も:D(6)66653
4.ぶ:D(8)4889J,P(A28TK)
3手目のもりしーさんのドローは6で手札の6は3枚に。それを66653で全部使います。解説ルームのせきゅーんさんによれば66653は左切り取り可能素数、すなわち66653,6653,653,53,3と左から1桁ずつ切り取っていってできる数がすべて素数です。素数1つを覚えるだけでいくつも同時に素数を覚えられることもあり、記憶しているプレーヤーも多いかと思います。対するぶっちさんは4889Jを出します。これが素数で、場が流れればX[IN]→727で上がりでしたが4889Jは合成数(488911=23*29*733)。手番を取ることができません。
4手目終了時の両者の手札 ぶ:(A224778889TJKX)(残14枚) も:(34799T)(残6枚)
integers.hatenablog.com

5.も:D(3)3
6.ぶ:X[IN]
もりしーさんがドローしたのは3。絵札は2手目に引いたTのみでまだまだ苦しい状況が続いています。結局ドローした3をそのまま出しました。ぶっちさんはこのままもりしーさんに親を握り続けられるのを嫌ってかジョーカーを出します。

7.ぶ:89
8.も:D(T)94,P(QQ)
ジョーカーで手番を得たぶっちさん、ここで何を出すかが重要になります。出したのは89。もりしーさんはドローの後、94を出してさらに山札を引きます。手番は再びぶっちさんに移りますが、この1手で絵札を3枚手に入れました。
8手目終了時の両者の手札 ぶ:(A2247788TJK)(残11枚) も:(34799TTQQ)(残9枚)

9.ぶ:47
10.も:D(Q)T9
11.ぶ:8J
12.も:D(K)QK
13.ぶ:D(K)%
9手目にぶっちさんが出したのは47。2枚出し攻勢を続けるようです。もりしーさんはまたも絵札(Q)をドローし、T9を出します。せきゅーんさんによると109は地球と太陽の直径比だそうです*5。ぶっちさんは即座に8Jを返します。ここでもりしーさんは絶好のタイミングでKをドローしQK。ぶっちさんはドローしてパスします。

14.も:QQT3
15.ぶ:%
もりしーさんはQQT3を出します。今が勝負の時と睨んでの4枚出し。QQT3は4枚出しの中ではそこまで大きな素数ではありませんが、ぶっちさんが4枚出しをあまり覚えていないだろうという読みも込めて出したと思います。ぶっちさんの残り手札は(A2278TKK)。7TKKが出せれば822Aで上がれます。ところが時間いっぱいのところでぶっちさんが出したのはKKT87。枚数が違うため手札に戻されパスとなります。

16.も:947#
もりしーさんが残りの手札を出し切って2本連取となりました。

もりしーさんは初期手札絵札ゼロという大劣勢を見事にひっくり返し勝利しました。

3本目(15:30:46~15:37:29)

初期手札 ぶ:(245578TTTQX) も:(AA233789JJQ)
3本目を前に帽子を脱いだぶっちさん、巻き返せるか。初期手札は絵札がジョーカーを含めて5枚あるものの奇数が7しかなく素数が非常につくりづらい。もりしーさんは絵札3枚でまずまずの初期手札ですがKがないのが惜しい。ラマヌジャン革命を起こすのも作戦のひとつとして考えられます。

1.ぶ:D(2)QT27,P(6667)
1手目、ぶっちさんはドローしますが引いたのは2。奇数を引けず。QT27を出しますが素数ではありません(121027=37*3271)。ちなみに(2,7,T,Q)は詰んデレセットです(素数になるのは2TQ7のみ)。偶数を消費することはできませんでしたがペナルティは奇数を引くチャンスでもあります。しかし、ペナルティで引いた4枚は(6667)。奇数は1枚だけであまり嬉しくない結果に。

2.も:D(5)57[GC]
もりしーさんはドローした後、長考に入ります。まずは残り10秒まで考えてからグロタンカット。

3.も:D(3)2A3J3J3A
4.ぶ:%
そして再びドロー。要領よく手札を並べ替え2A3J3J3Aを出します。大会史上初の8枚出し成功です。解説ルームも出された当初は困惑の様子でしたが2のあとに131(KA)を3つ並べたものだとわかると「『ニカカカ』*6って何ですか?」(みうらさん) まあ何であれ覚えやすいならいいんじゃないんですかね。なお213113113Xは四つ子素数だそうです*7。対するぶっちさんはQT466687を出しますがまたも場より小さい数を出してしまったので認められず、時間切れで強制パス。
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5.も:Q89#
もりしーさんが最後に出したQ89は素数。3本目ももりしーさんが勝利し準決勝進出を決めました。

前期Mathpower杯覇者がぶっちさんをまったく寄せ付けない試合運びでストレート勝ち。

講評

この試合はまさにもりしーさんの独壇場となりました。もりしーさんは今期のMathpower杯に向けて「35億素数」や大きな四つ子素数を中心に素数を覚えてきたようで、その成果が現れた結果となりました。Mathpower杯は2019年1月現在その試合経過が生放送される唯一の素数大富豪大会なので「魅せプレイ」を積極的に狙っていく絶好の機会です。とくに「35億素数」が出されたときの盛り上がりは今大会の名場面のひとつになりました。詳しいいきさつについてはもりしーさん自身がMathpower杯を振り返ったこちらの記事を参照。
prm9973.hatenablog.com

2本目は前述のような映える素数はなかったもののもりしーさんの底力が発揮された勝負だったと感じます。2本目のもりしーさんの初期手札は絵札がなく。その時点で負けを覚悟してもおかしくない状況でした。しかしもりしーさんは諦めません。まずグロタンカットで親をとると66653を出します。これは偶数を消費するだけでなく多枚出しによってぶっちさんが返せずに再び親をもつことが大いに期待できる出し方です。ぶっちさんがペナルティを受けた後、もりしーさんは3の1枚出し。ここがこの勝負のポイントとなりました。この時点でぶっちさんから見るともりしーさんは初期手札から3枚ドロー、8枚出して残り手札は6枚。出しているのはすべて1桁のカードですからJ,K,ジョーカーが手札にあってそれを温存しているように見えます。もりしーさんの残り手札にジョーカーがあったとするとぶっちさんはジョーカーを返さない限りもりしーさんが再び親となります。なのでぶっちさんがあの場面でジョーカーを出したのはそれを阻止するということで悪手ではありません。ただしもりしーさんからするとぶっちさんにジョーカーを出させたという点ではもりしーさんの作戦勝ちといえるでしょう。

その後ぶっちさんは2枚出し攻勢を仕掛けます。2枚はすべての偶数カードが消費できる最小の枚数で素数大富豪の入門としては基本ですが、戦略面からいうと2枚出しは注意を要します。まず2枚出し素数が揃いやすいこと。初期手札が悪くてもドローやペナルティを繰り返せば最大素数(QK)やそれを超える合成数出し(KQ=2^5*4Aなど)が3枚出し以上に比べて容易に揃います。しかも1手で消費できる枚数が少ないので手数が多くなりドローの機会も多くなります。そのため2枚出しが主体の勝負では初期手札の優劣はあまり問題になりません*8。ぶっちさんの2枚出しに対し、もりしーさんはカマトトやドローを駆使し絵札をためてQKを揃えました。

次にグロタンカットの存在です。前述のように57を出すと即座に親がとれるので57より小さな2枚出しは(相手にグロタンカットを出されないように)避けることが多いです。ところが4を使う2枚出し素数はすべて57より小さい(4A,43,47)ので4を2枚出しで出そうとなると57より小さくても出すか、または合成数出し*9をしなければなりません。つまり4は2枚出しでは消費しにくいのです。ぶっちさんが57より小さい2枚出しをしたのがこの試合を通して2回ありましたが、その両方に4が含まれています(47,A6=2^4)。そして2回とももりしーさんにグロタンカットを出されています。

さて、もりしーさんにストレート負けを喫したぶっちさんですが、反撃の機会は何度かありました。1本目のX5QQQ8A|X=3や3本目の2A3J3J3Aの多枚出しの直後の勘出しは可能性は低いものの決まれば勝負の展開が大きく変わっていたかもしれません。実際は出したものの場に出ている数より小さいため認められず、残念な結果になってしまいました。また、3本目は初期手札が偶数ばかりだったので、思い切って初手全出しもありだったと思います。もし素数であればそれで1本取れますし、素数でなかったとしても手札が20枚以上となって戦略の幅が広がり、もりしーさんも戦いづらくなったかもしれません。ただし後者の効果は全出しをする方がある程度多枚出しを知っていることが前提となり、今回の場合その効果はあまり期待はできなかったでしょう。とはいえ全出し成功が一番の「魅せプレイ」であることは言うまでもありません。

この試合の数譜を改めて見てみます。

1本目
ぶ:(A446778TTKX)
も:(A2567899QQQ)
ぶ:647
も:D(4)658,P(QKX)
ぶ:D(3)47
も:D(5)57[GC]
も:D(9)9629
ぶ:8TTK,P(237J)
も:X5QQQ8A|X=3
ぶ:%
も:9Q4K#


2本目
ぶ:(A22447789JX)
も:(33455667799)
ぶ:D(6)A6=2^4
も:D(T)57[GC]
も:D(6)66653
ぶ:D(8)4889J,P(A28TK)
も:D(3)3
ぶ:X[IN]
ぶ:89
も:D(T)94,P(QQ)
ぶ:47
も:D(Q)T9
ぶ:8J
も:D(K)QK
ぶ:D(K)%
も:QQT3
ぶ:%
も:947#


3本目
ぶ:(245578TTTQX)
も:(AA233789JJQ)
ぶ:D(2)QT27,P(6667)
も:D(5)57[GC]
も:D(3)2A3J3J3A
ぶ:%
も:Q89#

次回はOTTYさんとマモさんの「北海道対決」です。

お知らせ

改めまして新年あけましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、年々盛り上がりを見せる素数大富豪ですが、2019年から「素数大富豪で遊ぼう会」*10の初代幹事・二世さんの呼びかけでオンライン素数大富豪デーが開催されることになりました!
nisei.hatenablog.com
これはオンラインで素数大富豪ができるサイト素数大富豪オンラインを使って素数大富豪をしよう、という企画です。予定では毎週日曜日の19時からおよび毎月13日の21時からで、今日はその初日です。誰でも参加可能なのでぜひアクセスしてみてください! 私も参加するつもりなのでよろしくお願いいたします。

*1:時間はタイムシフトにおけるこの勝負の放送時間です。

*2:それで上がりとなる場合や自分から5や7が3~4枚見えているなどで相手が57を持っていないと思われる場合はこの限りではありません。

*3:この”!”は階乗を表す記号ではありません。感嘆を表す記号です。また35億は2010年代半ばにおける世界の男性人口の概数です。

*4:「744はj-不変量の定数項」tsujimotterさんが2018年8月のロマンティック数学ナイトで紹介した素数

twitter.com

*5:INTEGERSにも書いてありました。integers.hatenablog.com

*6:素数を語呂合わせで覚えるのにKAで「カ」、TAで「タ」と読むことが多いです。日本語に頻繁に現れる音にもかかわらずうまく対応する数字がないのでこれは非常に便利です。

*7:213113113Xについてのもりしーさんのツイート

twitter.com

*8:裏を返せば多枚出しは揃いにくいので初期手札の時点でどれだけ揃っているかが重要になります。多枚出しをするプレーヤーが増えて「素数大富豪は運ゲー」といわれるようになった理由のひとつです。

*9:KQ=2^5*4Aの他に64=2^6,8A=3^4,86=2*43,94=2*47などが使いやすいです。

*10:札幌を中心に月1,2回開催される素数大富豪がしたい人が集まって素数大富豪をするイベント。もりしーさんが二世さんから引き継いで幹事を務めている。