初代素数王の備忘録

KA4T6X|X=9(カステラくん)は素数。

【第3期Mathpower杯】準決勝-1 もりしー-マモ

第3期Mathpower杯もいよいよ準決勝に入ります。1試合目はもりしーさんとマモさんの対戦です。前期Mathpower杯のもりしーさんはここまでくじらさん、ぶっちさんをストレートで破っての準決勝進出です。マモさんはEvaTecさん、OTTYさんを下してのベスト4入り。マモさんにとってはOTTYさんに続いての北海道対決です。それぞれの意気込みは
もりしーさん「地元の決戦という感じではありますけど、負けずにしっかりと戦っていく」
マモさん「(もりしーさんは)前年の優勝者なので、なるべく健闘していきたい」
ということです。解説は鰺坂もっちょさん、せきゅーんさん、そして素数判定員を務めた狡猾な狐さん*1。1本目の先手はもりしーさんになりました。

1本目(17:29:24~17:38:42*2 )

初期手札も:(23344679JQX) マ:(AA25579TJQK)
もりしーさんの初期手札はジョーカーが1枚あるものの、他の絵札がJ,Qの2枚なので少し心もとない印象。手堅く3・4枚出しで攻めようとするとマモさんに押し返される可能性が高いので、多枚出しもあり得ます*3。一方のマモさんは絵札がT,J,Q,K各1枚ずつの初期手札。3・4枚出しにはKTJ,KTQJがありますし、A,A,2があるので多枚出しでも枚数の調整が可能*4であり、ラマヌジャン革命にも対応できます。後手としては非常にバランスのとれた初期手札が入りました。

1.も:D(7)4643
2.マ:D(7)5527
3.も:D(5)9773,P(6QKX)
1手目、もりしーさんはドローの後4643「よろしみ」を出します。4649「よろしく」とセットで覚えたい素数です。ドローで手札を補充しつつ偶数消費を図ったようです。対するマモさんは5527を返します。こちらも絵札を温存し偶数消費。もりしーさんは9773を出しますが、これは合成数(9773=29*337)。もりしーさんは「あれ?」といった様子で首をかしげます。ペナルティで引いたのは(6QKX)。手札の絵札が2枚のジョーカーを含めて6枚となり、マモさんへの反撃に備えるには嬉しい。

4.マ:9Q7
5.も:D(8)KXJ|X=K
6.マ:D(3)%
マモさんは9Q7を出します。KTJ→AAでの上がりが狙い。もりしーさんはKXJ|X=Kを手札右側に置き少し考えてからドロー、8を引きます。結局KXJ|X=Kを出し、親をとることを選びます。
6手目終了時の両者の手札 も:(23567789QQX)(残11枚) マ:(AA3TJK)(残6枚)
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7.も:8623
8.マ:D(9)9KTJ
9.も:D(4)%
もりしーさんが出したのは8623「ハロー兄さん」。9QQX|X=K→757を狙った4枚出し。マモさんのドローは9。4枚7桁最大素数の9KTJを出し、勝負に出ます。もりしーさんが返すにはJかQをドローする必要があります(QQQJが出せる)が、ドローしたのは4でカウンターできず。

10.マ:3AA#
マモさんの残り手札は(AA3)。この3枚はAA3,A3A,3AAどう並べても素数です。最大の3AAとして出してマモさんが上がり。

1本目は着実に手札を減らしていったマモさんが勝利。もりしーさんは今大会初めての黒星となりました。

2本目(17:39:50~17:43:01)

初期手札も:(3488JJQKKKK) マ:(AA3345678QX)
もりしーさんの初期手札にKが4枚、絵札が合計7枚。解説陣も「うわあああああ」と声を上げてしまうほどの絶好の手札です。しかしもりしーさんは表情ひとつ変えません。マモさんはジョーカーがありますが、他は平凡といった印象。もりしーさんに立ち向かうのは難しいか。
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1.も:4KKK
2.マ:D(7)%
もりしーさんは1手目から絵札を3枚使って4KKKを出します。ちなみにKを3枚使う4枚出し素数はこれとK8KKのみです(下位互換を除く)。絵札が2枚しかないマモさんはドローするも絵札を引けずパス。

3.も:KJQJ
4.マ:D(A)%
場が流れるともりしーさんはすぐに4枚出し最大素数KJQJを出します。マモさんはドローすることしかできません。

5.も:883#
最後は883でもりしーさんが勝利。

マモさんに1枚も出させることなく一方的な展開でもりしーさんの勝ち。1-1になります。

3本目(17:44:41~17:50:01)

初期手札マ:(A22356789JQ) も:(2333467JQKK)
マモさんは絵札2枚とまたもや苦しい初期手札。1本目でも触れましたが、このような絵札が少ない初期手札のときは相手が出せないことを期待して一か八かの多枚出しを狙うという作戦があります。また今回に限っては229→5QJ=83*6A7と合成数出しで待ち伏せするという作戦もあります。どちらも相手の出方次第では一気に窮地に追い込まれてしまう戦法であり成功率も高くはありませんが、いわゆる正攻法でも返される可能性が高いのでこの場面でこのような作戦をとる価値は十分にあります。対するもりしーさんの初期手札には絵札4枚。先ほどとまではいきませんが、KKJ,QKJK,7QJKKなどがあり、今回も良さそうな手札です。

1.マ:987526A3
2.も:D(A)34KQKA2J
3.マ:%
マモさんは987526A3と8枚出し。4以外の1桁カードで作れる最大の素数です。そして手札に残った2QJは素数。もりしーさんはドローし、Aを引きます。A2をQとみなせばQを使った7枚出し素数で返せます。残り10秒で出したのは34KQKA2J。5枚出しで4番目に大きい素数KQKQJの前に34をつけた数もまた素数*5。見事カウンター成功です。
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4.も:6733#
もりしーさんは残り手札4枚を6733と並べて素数かどうかの最終チェック。そしてついに6733を場に出します。判定は素数で、もりしーさんの上がりとなりました。

もりしーさんが2本連取で決勝進出まであと1勝とします。

4本目(17:51:19~17:56:34)

初期手札マ:(A237799TTKX) も:(AA2678TJQQK)
マモさんの初期手札には絵札がジョーカーを含めて4枚ありますが、ジョーカー以外が(TTK)という組み合わせは作れる大きな素数が少なく扱いが難しいです。というのも、2枚出しTKはQKで返されてしまい、3枚出しは作れません。また1枚加えてできる4枚出しは最大がTATKで、これは絵札3枚の組み合わせにおいては素数がまったく作れない(TTT)を除いて最小です。マモさんがこの絵札をどのように使っていくかに注目です。もりしーさんは絵札5枚の初期手札。しかもその絵札5枚はQJQTKと素数が作れる組み合わせ。A,A,2もあり、マモさんが先ほどと同様に8枚出しを仕掛けてももりしーさんなら対応できそうな手札です。

1.マ:D(3)97332A
2.も:6QJTQK
3.マ:D(7)%
マモさんは少し考えてからドロー。引いたのは3です。時間いっぱいで出した97332Aは素数。マモさんは残り手札を97XTTKと並べていますがX=Qで素数です。もりしーさんは場の6枚出し素数97332Aにただ返すだけでは残り手札6枚のマモさんに上がられる可能性がありますから、ここではできるだけ大きな素数を出したいところ。持っている絵札をすべて使って6QJTQKを出します。マモさんは絵札を求めてドローしますが引けず、パス。

4.も:87A2A#
もりしーさんが残り5枚を87A2Aとして出して上がり。3-1でもりしーさんが決勝進出。
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1敗したものの、その後は3連勝でもりしーさんが勝ち上がりとなりました。
もりしーさん「これまでと変わらず確実に戦っていきたいと思います」
マモさん「やはりもりしーさんは強い」

講評

準決勝第1試合はトップクラス同士のハイレベルな戦いとなりました。
1本目の勝負の分かれ目はもりしーさんの5手目。ドローした直後は次のような状況です。

マ:(?????)(残5枚)
場:9Q7
も:(23567789JQQKXX)(残14枚)

マモさんが3枚出しで残り手札5枚となった場面。その5枚は3枚6桁素数と2枚素数に分けられている可能性が高い。もりしーさんはKXJ|X=Kがあるのでこれを出せば確実に親がとれます。考えられる作戦は2つあります。

  • すぐにKXJ|X=Kを出す(実戦はこちら)
  • いったん小さな3枚出しをして、いったんマモさんのカウンターを受けてからKXJ|X=Kを出す

前者の場合、残りの手札(23567789QQX)で絵札3枚のマモさんに立ち向かわなければなりません。マモさんのドローによる手札補充を考えると確実に親を維持するには8枚出しが必要ですがこれは難易度が高すぎる。実戦は8623(→9QQX|X=K→757)の4枚出しで現実的な出し方でした。マモさんの持っている3枚6桁素数KKJだと仮定すると、9QQKより大きな素数を作るにはKJTKに必要なT(山札に4枚)か、QKJKに必要なQ(山札に1枚)を引けばよいので、これらが引ける確率は約38.0%*6。すなわち、この勝負手9QQX|X=Kは返される確率が4割弱ほどあり、リスクが高いです。実際はマモさんが持っていたのはKKJではなくKTJで、8623の直後のドローで9を引き9KTJを返されています。
後者の作戦のメリットはKXJ|X=Kを出して親をとった後の残り手札が少なくなり、それを一気に出すことで上記のリスクを回避できるという点です。(23567789QQX)から9Q7よ大きくKKJ未満の3枚出しをしなければなりませんが、これはQQ5=X^3*97|X=5(残りは8627)やQQ8=2^5*379(残りはX67|X=K)があります*7。デメリットはマモさんがKKJを持っていた場合はそれを出す機会を与えてしまうということです。もりしーさんから見るとJ,Kがそれぞれ3枚ずつ残っていますし、マモさんは自分の手札を検討したうえで9Q7を出しているわけですから、マモさんがKKJを持っている可能性は十分あります。参考として、「マモさんの勝負手はKTJ以上である」「4手目の時点でKJQJやKKQKJが揃っていない」という仮定の下でもりしーさんから見たマモさんがKKJを出せる確率は約32.6%です*8。こちらの作戦もある程度のリスクがあります。
どちらの作戦が正解なのかは運に委ねられる部分があるので一概には言えません。

2本目はもりしーさんの手札があまりにも良いためにワンサイドゲームとなりました。もりしーさんはいつもポーカーフェイスなので、表情を手札の判断材料にすることが困難です*9。周囲のどよめきをよそに淡々とカードを出し切りました。

3本目、4本目は先手のマモさんの多枚出し(しかも残り手札も素数!)も見事でしたが、もりしーさんのカウンターがそれを上回りました。元は「7枚出しの名手」OTTYさん対策として覚えてきたという6枚11桁、7枚12桁素数がここで威力を発揮することになりました*10

解説ルームでも話題になりましたが、素数大富豪プレーヤーは「マイ素数」というのを持っています。枚数に応じて素数の個数が指数関数的に増加するので、4枚出しあたりから素数をすべて網羅して記憶することが非常に困難になります。それでもよりたくさん素数を覚えようとするのですが、覚える際の基準や優先順位といったものは現在のところ整備されていません*11。そこでプレーヤー自ら基準を設けて素数を探します。例えば、3本目マモさんの1手目987526A3は(A23456789)から1枚抜いた8枚で作れる素数、もりしーさんの2手目34KQKA2Jは5枚出し素数KQKQJの上に2枚つけて作れる素数です。ここでいう基準はプレーヤーによってさまざまであり、今回の例のようにお互いに相手の出した素数は知らなかった、ということもよくあります。この記事を読んでいるあなたもマイ素数を見つけて素数大富豪で出しましょう*12!

いつものように数譜をまとめておきます。

1本目
も:(23344679JQX)
マ:(AA25579TJQK)
も:D(7)4643
マ:D(7)5527
も:D(5)9773,P(6QKX)
マ:9Q7
も:D(8)KXJ|X=K
マ:D(3)%
も:8623
マ:D(9)9KTJ
も:D(4)%
マ:3AA#


2本目
も:(3488JJQKKKK)
マ:(AA3345678QX)
も:4KKK
マ:D(7)%
も:KJQJ
マ:D(A)%
も:883#


3本目
マ:(A22356789JQ)
も:(2333467JQKK)
マ:987526A3
も:D(A)34KQKA2J
マ:%
も:6733#


4本目
マ:(A237799TTKX)
も:(AA2678TJQQK)
マ:D(3)97332A
も:6QJTQK
マ:D(7)%
も:87A2A#

次回は、準決勝のもう1試合。私とキグロさんの対戦です。

*1:ホールでの1・2回戦および壇上での2回戦2試合を担当されました。

*2:時間はタイムシフトにおけるこの勝負の放送時間です。

*3:「こういうときcpuはどうするのだろう」と思って素数大富豪 手札探索に尋ねたところ、QJ49=3^2*3*7*64X|X=Aが返ってきました。

*4:たとえば9KQTJ7(6枚出し)を9KA2TJ7(7枚出し)として出すなど。

*5:KQKQJの前には34の他に87,85,8A,63,3A,28,24,A9などがつくようです。

*6:山札24枚からKXJ|X=Kの直後と8623の直後の計2回ドローの機会があり、指定された5枚のうち少なくとも1枚引けばよいので、確率は1-(19 \times 18)/(24 \times 23)=35/92=0.3804 \dotsとなります。

*7:QQ8=2^5*379に関してはもりしーさんが自身でツイートしていらっしゃったので覚えていたかもしれません。

twitter.com

*8:
\begin{align}
\frac{P(0,2) \times \frac{3}{24}+ P(0,3) \times \frac{3}{24} + P(1,1) \times \frac{2}{24} + P(1,2)}{P(0,2)+P(0,3)+P(1,1)+P(1,2)} = \frac{919}{2816} = 0.3263 \dots
\end{align}
ただし 
\begin{align}
P(a,b) = \frac{\binom{3}{a} \binom{3}{b} \binom{30}{12-a-b}}{\binom{36}{12}}
\end{align}
(もりしーさんに渡ったカードを除く36枚から12枚選んだときにJがa枚、Kがb枚含まれる確率)

*9:対照的に私なんかは顔に出ちゃうほうです。しかも相手の表情を窺う余裕がない。

*10:もりしーさんによるMathpower杯回顧録prm9973.hatenablog.com

*11:「偶数消費型」「連番型」などが以前からありますが、それらだけではまだまだ足りません。

*12:実際のゲーム中に突如現れる素数も多数観測されておりますので遠慮なさらず。ここに素数大富豪への入り口を用意いたしました。 素数大富豪 :素数大富豪プレーヤー御用達のcpu対戦。初めてならver.1から。 素数大富豪オンライン:オンライン対戦。毎週日曜19時からと毎月13日21時からはオンライン素数大富豪デー。ビギナーからトッププレーヤーまで誰でも参加可能!