この記事は合成数大富豪Advent Calendar 2024の14日目の記事です。
今年ははち杯の合成数大富豪に3回出て準優勝2回・3位1回、素数大富豪で遊ぼう会in関東が開催した変則素数大富豪大会では準優勝という成績でした(優勝はすべてOTTYさん)。本稿では私が合成数大富豪でよく使っている大きめの合成数について紹介します。
合成数大富豪とは
「合成数大富豪」とは、一言でいえば、(基本的には)合成数出ししかできない素数大富豪のことです。本稿を読むにはこの理解で十分ですので*1詳しい説明は省略します。
細かいルールや歴史については本Advent Calendarの作成者であるOTTYさんの記事をご参照ください。
otty8121013.hatenadiary.jp
合成数大富豪で有効な合成数とは
合成数素数大富豪で便利な合成数にはどういったものがあるでしょうか。素数大富豪で便利な素数にどういったものがあるかを思い出すと
- n枚2n桁(勝負手として使用)
- 偶数消費型(使いにくい偶数カード消費用)
- 使うカードに重複がない、または少ない数(全出し時に揃う確率が高い)
- 超多枚数の数(覚えている素数の知識量の勝負となり、知識量の差異が大きい現時点では有効性が高い)
- 少枚数の数(上記で余ったカードで上がるため)
といったものがあります。合成数大富豪でのそれぞれに対応する数の有効性について、筆者の考察は以下の通りです。
- n枚2n桁 …… 合成数大富豪でも有効、しかしそれだけだと使える個数が少ないのでn枚2n-1桁も勝負手になりうる
- 偶数消費型 …… 2や5(素数大富豪の文脈では「5は偶数」)は合成数大富豪では重要性が高いことから「使いにくいカードを大量に使う数」と言い換えれば有効
- 使うカードに重複がない、または少ない数…… 合成数大富豪でも有効
- 超多枚数の数 …… 事例が少なく合成数大富豪での有効性は不明
- 少枚数の数 ……出し方の制約が大きく利便性は小さいが不可欠
少枚数の合成数が素数大富豪における少枚数の素数と比較して出すための制約が大きいことから、合成数上がりを目指すにはその前から出すカードの構成の吟味が重要になります。
組み切りに適した合成数
素数大富豪では、全出し戦略の普及によりn枚n桁素数の網羅的な習得がn=10程度まで行われるようになりました。さしみさんは先日、9枚9桁素数でカードの重複が少ないものの覚え方を提案しています(さしみ 2024)。
素数を覚えるうえでは、四つ子素数を覚えるのがよいと考えられ、多くの素数大富豪プレーヤーが実践しています。四つ子素数は末尾のカードがA・3・7・9のどれでも素数ということで、共通の部分を覚えれば素数を4個覚えられるという効率の良さもありますが、同時に他のカードの都合にあわせて末尾が選べるという柔軟性もあります。合成数大富豪では、(覚えやすさはいったん忘れて)1枚(もしくは少数枚)を入れ替えるだけで別の出し方になる、という意味で、四つ子素数の類似物が存在します。
たとえば(A2334567)という8枚を考えると合成数出しとして3・4・5枚出しができます(つまり入れ替え0枚で異なる合成数が出せる):
546=2*3*7*A3
A376=2^5*43
336A4=2*7^5
さらに、1枚入れ替えるだけで(少なくとも)これだけ出せます*2。
(A→3) 3456=2^7*3^3
(A→5) 4625=5^3*37
(2→4) 4453=6A*73
(2→9) 394A=7*563
(3→A) A54A=23*67
(3→7) 3647=7*52A
(3→K) 3K4=2*A567
(4→A) 2673=3^5*AA
(4→6) 366A=7*523
(4→J) 36J=23*A57
(5→4) 324A=7*463
(5→6) A466=2*733
(5→9) A363=29*47
(5→J) 64J=3*2A37
(5→J) A4336=2^J*7
(6→A) 2A73=4A*53
(6→7) 247A=7*353
(6→9) 459=3^2*3*A7
(6→T) 3AT4=2^7*3^5
(6→K) 334A=K*257
(7→A) A623=3*54A
(7→2) 5A6=2*2*3*43
(7→5) 32A5=5*643
(7→9) 456=2^3*3*A9
(7→J) 64A3=J^2*53
少枚数の入れ替えによって得られる合成数出しが多いカードの組とそれからできる合成数出しを覚えることで、実戦において適当な合成数を選択することによって合成数出し上がりができる可能性が上がることが期待できます。
もう一つ、組み切りに適した合成数の分類に「高い冪を含む合成数」があります。合成数出しにおいて
- 素因数は重複してもよい
- 指数は入れ子にしてもよい(掛けるのは不可)
というように出し方に関しての許容範囲がやや広く設定されています。たとえば5Q=2^9は
5Q=2^8*2
5Q=2^6*2^3
5Q=2^4*2^3*2*2
5Q=2^3^2
5Q=2^2^2*2^5
5Q=2^2^3*2
などで出してもよいことになっています(入れ子の指数は右から計算します。5Q=(2^3)^3という出し方は認められていません)*3。以前、はちさんにT48576=2^20の素因数場の出し方(はち 2021a)をすべて調べていただいたところ、299通りあるとのことでした。また、最近の素数大富豪では全出し時に67A8464=2^T*3^8や4782969=3^A4といった高い冪を含む合成数を使った7枚出しの組み切り(mickey 2022)がよく見られます。2024年12月13日までに全日程が終了した合成数大富豪大会・素数大富豪大会において、6718464は13回、4782969は19回出されていますが、素因数場の出し方(素因数の順序だけ異なるものは同一視した)を見ると6718464は8通り、4782969は13通りありました。このような高い冪を含む合成数は出し方が幾通りもありえるため、合成数大富豪でも有効であると考えられます。一方で、出し方の多くは合成数大富豪で重要な2や3を多く使用するため、組み切りを考えるとコストが高いというデメリットがあります。
余談: そもそも指数表記を用いた合成数出しは素数大富豪誕生当初のルールにはなく、ラマヌジャン革命とともに誕生から2年7ヶ月後の2016年12月に追加されたのでした。詳しい経緯についてはせきゅーん (2016)を参照。
大きな合成数
次の問題はどうやってそのような組を探すかです。大雑把に考えれば、枚数が多いほうが入れ替えの候補が増えるので、組み切りへの適用度が高くなりそうです。さらに「超多枚」になるので、素数大富豪における超多枚数出しと同様の有効性が期待できます。探索にあたって「使いにくいカードを大量に使う」「使うカードに重複がない、または少ない」組を対象とすれば、他の戦略との兼ね合いも図れます。
コロナ禍真っ只中の2020年*4、気まぐれでnishimuraさんの素数探索(nishimura 2019)で大きな合成数の探索をし、結果をファイルに保存していました。合成数大富豪の大会が開催されるにあたり、毎回そのファイルから使えそうな合成数を何個か覚えて大会に臨んでいます。
実際に覚えた合成数を紹介します。
8Q74K=7*J6T59
使うカードは(4567789TJQK)と、A23を使わず、重複が7のみなのが特徴。上にカードを追加して428Q74K=7*6J6T59や854Q74K=7*Q2J6T59などと拡張可能。
7JA8KQ=2^T*6945A3
以前の記事(カステラ 2020)でも紹介した、A~K各1枚の13枚にAを追加した14枚で構成される6枚9桁の合成数。「A3」という部分があるので、ここをKに置き換えてもよいですし、同じ札の構成で7JA8A3Q=2^T*6945Kと7枚出しもできます。2^10という高い冪を含むので、2がたくさん使えるならさまざまな出し方が可能です。さらにA~Kの13枚に追加するのをAから4Jに換えることで7JJ8KQ=2^T*69445A3が出せます*5。
8QTA5J =A3*62469347
8QTA5K=3A*26A96823
OTTYさんが好きそうな8QTから始まる合成数その1・その2。もともと8QTA5Jだけ紹介しようと思い、素因数分解の確認しようと素数判定アプリに入力しようとしたら誤って8QTA5Kと入れてしまったが、これはこれで使えそうなのでまとめて紹介。
8QTTKQK=3*7^2*55244966879
OTTYさんが好きそうな8QTから始まる合成数その3。AとJを使わないのが特徴。
TJQKQJK8=2*3*3*59*658A*A4467279
Tが1枚、残りが各2枚ずつの25枚の構成。A~Kを各1枚ずつ使う合成数出しが結局見つけられなかったので(後に存在しないことが証明されました(はち 2021b))、各2枚ずつ使う合成数出しを探索して見つかった、私が知る限りそれにもっとも近い合成数。
JQJ9KTKQ=2^A4*6787836493
2の高い冪を含み、それ以外の箇所に2を使わないので使いやすそう。と思いきやカードを使いすぎて指数にあてられるカードがなくなり、結局A4のままになることが多い。
7TQKQJTK=J*645564829A9A83
7QTKQJTK=J*647364829A9A83
非常によく似た8枚15桁合成数。どちらも2を1枚しか使わないのが良い。素因数の12桁の素数は「虫・ここ・虫・パンツグイグイ婆さん」「虫・波・虫・パンツグイグイ婆さん」。82919183*11の下8桁が12111013なので他にも使える「パンツグイグイ婆さん」合成数があるかもしれない。
JTTQKJKQ=2^4*6938A3258A9457
8枚16桁合成数。6と7が各1枚、残りが各2枚の24枚の構成。素因数の14桁の素数は「ロック雅さんに怖い給与カット」(57→グロタンカット→カット)。KJKQ=2^4*8A9457の拡張だと思えば覚えやすい?
実際にどれだけ出せているのかを見るために、合成数大富豪大会・素数大富豪大会で出された1兆以上の合成数を一覧にしたのが次の表です。オレンジで示したのが複数回出されたものですが、すべて私が出したものです(2024年12月14日の第26回はち杯でさしみさんが29412685111086127=139*733^5を出し、出された回数が2となりました)。
今後の展望
今のところ合成数をひとつひとつ覚えていくしかなく、覚える大変さから実際に使えている個数が少ないのが現状です。そのため、組み切りに生かすというところまでは到達していません。たとえばTJQKQJK8=2*3*3*59*658A*A4467279から1枚抜いた
Q3KTJJKQ=2^3*2*7695688A94457 (Aを1枚抜いた)
Q6TJKJKQ=2^3*2*788A3A9569457 (4を1枚抜いた)
KJQKQJ5T=2*3*5*487*8974A3629A (6を1枚抜いた)
JK6TQJKQ=2^4*3923*A774A68559 (8を1枚抜いた)
KKQJ9Q6T=2*5*J*23*A447*358687A (9を1枚抜いた)
7KQ9TJKQ=2^4*3*A4856856273A9 (Jを1枚抜いた)
を覚えられると良いですが、かなり大変です。
ほかに、戦略とは関係なく興味がある問題を挙げて本稿の締めくくりとします。
- A~K各1枚の13枚に任意の2枚*6を追加した15枚からなる合成数出しは存在するか(私の調べた限り6J、8T、TT、TJ、QQ以外は存在する。この5通りについては不明)
- A~K各2枚の26枚からなる合成数出しは存在するか
- 次を満たすカードの組は存在するか: 、から任意の1枚を抜いた組、に任意の1枚を加えた組がすべて合成数出し可能(追記(2025年1月1日): 惜しい例として*7があります。考えるべき組のうち、から4を除いたもの以外はすべて合成数出し可能です)
合成数大富豪Advent Calendar 2024は明日(12月15日)から最終日(12月25日)までOTTYさんの記事が毎日読めます。とても楽しみです。
*1:当ブログの読者は通常の素数大富豪のルールは既知であるものとされています( カステラ 2018 )。
*2:カードが同じ組み合わせかつ場に出す枚数が同じものは場の値が大きいもののみ示しています。
*3:「5Q=2^2^3*2」は並べ替えると「2Q=2*2*53」になります。筆者は素数大富豪を含めても212を合成数出ししたり、されたのを見たりしたことがありませんが、上位互換が存在することから今後も目にする可能性は低いでしょう。誰か1回くらい212を出してみませんか?
*4:ファイルの作成日を確認したら2020年10月7日でした。
*5:1と4はいくつでも挟めますが、次に6944…4513が素数になるのは7JJJJA8KQ=2^T*6944444445A3で4が7枚必要。