初代素数王の備忘録

KA4T6X|X=9(カステラくん)は素数。

【第3期Mathpower杯】決勝 もりしー-カステラ

昨年の10月から半年に亘り解説してきた第3期Mathpower杯もいよいよ決勝戦*1。壇上には5分ほど前までキグロさんとの準決勝を戦っていた私・カステラ*2が赤の席、もりしーさんが青の席。素数判定員は三重積さんです。この試合でもりしーさんが勝てば大会史上初の連覇、私が勝てばこちらも史上初となる2冠です。
対戦を前にそれぞれ一言。
カステラ「予想はしていたのですけど、もりしーさんと当たってしまったなっていう感じです。優勝を獲るにはもりしーさんを倒さないといけないので、全力を尽くして頑張りたいと思います」
もりしーさん「せきゅーん杯ではカステラさんに敗れて残念ながら(上位に)駒を進めろことができなかったということもありましたので、対戦しても手ごわい相手なのですけど、ここは2連覇に向けていい勝負をしたいなと思います」
じゃんけんの結果、1本目はもりしーさんが先手、私が後手となりました。ちなみにもりしーさんは最初のじゃんけんはこれで3勝1敗と勝ち越し、逆に私は4戦全敗ですべて後手スタートです*3。解説は鰺坂もっちょさん、みうらさん、タカタ先生。

1本目(18:38:21~18:43:21*4 )

初期手札も:(2245679TTKX) カ:(236678TJKKK)
もりしーさんには絵札がジョーカーを含めて4枚のまずまずの初期手札が入りました。偶数が多めで、多枚出し向きの手札です。私の初期手札は絵札5枚。Kが3枚あり、KKJのある3枚出しが理想の展開ですが、どうなるか。

1.も:D(J)46229
2.カ:D(3)76633,P(A678X)
もりしーさんはドローし、Jを引きます。絵札が5枚になったもりしーさんは46229と5枚出し。私は初期手札で作れる最大の5枚出し8JKKKを用意し、残りの手札でいったん小さめの5枚出しをしてもりしーさんの様子を見ようとしました。初期手札から8JKKKを除いた(23667T)でできる5枚出し素数を覚えていなかったのでドローしますが、引いたのは3。知っている素数が作れるカードではなかったので*5、自力で素数判定して出すことにします。焦るあまり3の倍数を出してしまっては興ざめですから*6、これは間違いなく3の倍数ではないといえる組み合わせ、すなわち四つ子素数の「幹」をとります。「幹」とは(5,7,11,13)を除く四つ子素数における十の位以上の部分(たとえば82Xにおける82の部分)のことをいいます*7。「幹」を3で割った余りは1になることが簡単にわかりますので、とくに3の倍数ではありません。 (33667)は四つ子素数73636Xの「幹」を構成する組み合わせ。うまく並び替えれば素数になるかもしれません*8。時間が押し迫っていたので最大の76633を出しましたが、判定は合成数(76633=197*389)。ペナルティとして5枚受け取ります。ジョーカーを手に入れ5枚出し最大素数KKQKJや6枚出し最大素数KKKKTJが出せます。5枚出し攻勢を仕掛けてきたもりしーさんにとっては用意していた勝負手が上回られる可能性が上がったので、決してデメリットだけではないペナルティだったと思っていました。
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3.も:57[GC]
ところが、もりしーさんはグロタンカット57を持っていました。私が46229に返せていたとしたら用意していた5枚出しの勝負手を出し、最後に57で上がり*9、返せなければ57[GC]→(勝負手)と出して手番を渡さずに上がるという二段構えの戦略。

4.も:KTTXJ|X=Q#
最後に出したのはKTTXJ|X=Q。5枚出しでの大きさは10番目ですが、(TJQK)にTを加えた5枚でできる最大の素数で覚えておきたい素数。これでもりしーさんが上がり。

1本目はもりしーさんが鮮やかな5枚出し攻勢で勝利。

2本目(18:44:36~18:48:56)

初期手札カ:(246689TKKKX) も:(A23457TJJKX)
私の初期手札にはまたもKが3枚入っています。1桁カードが偶数ばかりですが、864629が素数です。これはせきゅーん杯・決勝(カステラ-マモ)の1本目、1手目にマモさんが出した素数246689の上位互換として知っていた素数でした*10。残り5枚で勝負手を作って出す→もりしーさんが出せずにパス→864629で上がり、という短期決着を狙います。もりしーさんは絵札5枚の初期手札でこちらもよい印象。KX=2^5*4A|X=Q、KXJ|X=K,KJXJ|X=Qに加え、ラマヌジャン革命に対するカウンター(A423,A573=J*J*Kなど)もあるという万能の初期手札です。

1.カ:KXTKK|X=Q
2.も:KXJTJ|X=K
3.カ:%
私の初期手札から864629を除くと(TKKKX)。これでできる5枚出しを探します。30秒ほどかけた後KXTKK|X=Qを出します。5枚出しとしての大きさは6番目ですが、それより大きな5枚出しはKが1枚以上、KQJJJ以外なら2枚以上必要です。しかもそのKは私が3枚使ったので残り1枚、ジョーカーも残り1枚です。もりしーさんがその残り2枚を持っていて、さらに5枚出しができるだけの他の絵札も持っているとは考えにくい。KXTKK|X=Qはほぼ通るだろうと思っていました(後で計算したところ、この状況で私から見たもりしーさんが返せる確率は3.06%、ドローしても4.56%でした)。ところが、もりしーさんは残り1枚のK、残り1枚のジョーカーを両方持っており、他に絵札3枚で返せる状態。満を持してKXJTJ|X=K ! あるの~~~
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4.も:57[GC]
もりしーさんは残り6枚ですが、1本目に続いてグロタンカット57があります。まずはこれを出して残り4枚に。

5.も:A423#
4枚4桁はもりしーさんにとっては朝飯前のことでしょう*11。A423で上がり、もりしーさんが2連勝。

5枚10桁の出し合いに打ち勝ち、もりしーさんが勝利。優勝に王手。

3本目(18:50:39~18:55:24)

初期手札カ:(34568TTJJKK) も:(245579JQQKX)
私には絵札6枚の初期手札が入りました。3枚出しで4番目に大きな素数KTJ(KA011とみなして「かわいい」)が2組ある形で、並べ替えてできる最大の素数はKTTJKJ。しかも残り5枚は86453で素数。さすがにもりしーさんも絵札を6枚持っているとは考えづらい(後で計算したところ、この状況で私から見たもりしーさんが返せる確率は2.40%、ドローしても4.11%でした)ので、今度も短期決着を狙います。対するもりしーさんも絶好の初期手札ですが、6枚12桁を出すには1枚絵札が足りません。とはいえ、これは言い換えればドロー次第では6枚12桁素数が揃う可能性がある*12ということなので、まだもりしーさんには反撃の余地が残されています。恐ろしや……

1.カ:KTTJKJ
2.も:D(X)XKQQXJ|X=K|X=T
3.カ:%
私はシンキングタイムが終わるとすぐにKTTJKJを出します。続いてもりしーさんの手番。ドローの結果はなんとジョーカー! XKQQXJ|X=K|X=Tと出してカウンター成功です*13

4.も:57[GC]
もりしーさんの手札にはまたまたグロタンカットがあります。これを出して残り4枚。

5.も:4259#
会場の方を見てホール、解説ルーム、および視聴者全員の注意を引くもりしーさん*14。ゆっくりと、そして勝利を確信するようにカードをとり並べ替えます。そして出したのは4259。これは素数で、もりしーさんが上がり。もりしーさんのMathpower杯2連覇が決まりました。
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勝戦はもりしーさんが3連勝で見事優勝。おめでとうございます!!

試合終了後、タカタ先生からのインタビュー。
もりしーさん「嬉しいです!!」
カステラ「僕は全力を尽くしたので、もりしーさんをいっぱい褒め称えてやってください!」
そして、優勝したもりしーさんには素数大富豪の考案者・せきゅーんさんより『素数表 150000個』をはじめとした暗黒通信団の書籍5冊が贈呈されました。
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講評

勝戦は終わってみればもりしーさんの3連勝となりました。
1本目はもりしーさんの1手目・46229が最高の着手でした。先手が手札を完全に組み切って1手目を出したとき、後手は手なりのまま出すと先手に勝負手を出されそのまま上がられてしまいますから、カマトトして手札を増やし先手の勝負手に返せる可能性を高めるという戦略があります*15。先手にとって、この後手のカマトトは非常に厄介です。たとえば、もりしーさんから見て46229を出したときの勝負手KTTXJ|X=Qが返される確率は18.7%ですが、私のドローおよび5枚のペナルティのあとでは49.2%に上がります*16。これに対する先手の対策としては、後手にカマトトされた際にも上がれる戦略を用意しておくことです。実戦の57[GC]→KTTXJ|X=Qのようにグロタンカットを残しておいたり、75KXTTJ|X=Qのように残りのカードをすべて使って作れる素数を覚えておくという手もあります。前者は比較的簡単にできますが、初期手札で57を持っていないとできないという欠点があます。後者の方法は57を持っていない場合でも応用ができますが、そのためには大量の素数を覚えておく必要があります。
2本目は私の1手目KXTKK|X=Qが非常に惜しい手でした。確かにKXTKK|X=Qはこの5枚で出せる最大の素数ではあるのですが、上に記した通りわずか(4.56%)ですが返される可能性がありました。これはKK=K*TX|X=Aと合成数出しできる組み合わせでした。KKには返す手段がまったくありませんので、返される可能性はゼロです。この違いが2本目の勝負の行方を大きく左右することになりました。KXTKK|X=QとKK=K*TX|X=A、数としての大きさは100万倍ほど異なりますが、素数大富豪においてKKの合成数出しは絶対に返されることのない最強の1手なのです。ところが、直前にもりしーさんに完璧な試合運びで敗北していること、初期手札が絵札5枚でよかったこと、手持ちの1桁カード6枚で知っている素数が作れること、Mathpower杯の決勝の舞台で多くの方々から注目を受けていること、などなど、さまざまな要素が緊張や焦りという形となって私に押し寄せてきました。できるだけ大きな素数を出してもりしーさんを圧倒しよう、それだけしか考えることができませんでした。奇しくもこの状況は第1期Mathpower杯・決勝・4本目の鰺坂もっちょさんの状況に酷似しています。www.ajimatics.com
3本目も2本目の状況にそっくりです。初期手札は絵札は6枚、1桁が5枚。それぞれ絵札同士、1桁同士で素数が作れます。2本目と違う点はKKのような絶対的な着手が存在しないことです。実戦のKTTJKJはわずかながら返される可能性がありましたし(そして実際に返された)、3枚出し最大素数KKJを勝負手にTT3→KKJ→8645Jと組んでももりしーさんに先にKKJを返される可能性がありました。3本目に関してはKTTJKJが最善手だったと(今でも)思っています。まさかあの場面でもりしーさんがジョーカーをドローして返してくるとは思いもしませんから……
こうして振り返ると「もりしーさん、運が強すぎる」と思うことがあります。確かに、過去の数譜を見ると、ここぞという場面でキーとなるカードを引くといった状況が何度も起こっています。この決勝でも9割以上通るであろう素数にカウンターを2度も成功させています。もはや恨みたくなるような強運ですが、それを責めるのはお門違いというものです。なぜなら、私がせきゅーん杯で優勝できたのは運がよかったということもその理由の一つに挙げられるからです。たとえば、決勝(vsマモさん)の1本目は絵札がジョーカー2枚を含む7枚という初期手札でしたし、実は準々決勝(vsもりしーさん)の3本目もそうでした。現在の大会のルール(2本ないし3本先取のトーナメント方式)上、運という実力とは独立した要素が勝敗を分ける要因の一つになりうるのは仕方がないことです。せっかく素数をたくさん覚えても手札が芳しくなくて勝てないということもあります。しかし、その逆の手札がよかったからあまり素数を覚えていなくても勝てた、適当にカードを並べて全出ししたら偶々素数だったということもまた真です。素数大富豪は決して暇を持て余した神々の遊びに終わってはいけませんし、それで終わらせてはなりません。私は今日も新たな素数に出会い、来るべき大会に向けて精進いたします。もう一つお知らせがありますが、それは最後に。
さて、ウイニングプライム4259についてその特徴を調べてみました。素数大富豪においては4枚4桁素数で並べ替え最大(他に2459,2549が素数)。奇数1枚に対し偶数を3枚消費する偶数消費型の素数です。他には4261と双子素数、4253とセクシー素数であり、左切り取り可能素数の総数でもあります(素数2を除いていることに注意)*17。それから東京工業大学すずかけ台キャンパスの所在地に現れる素数です(神奈川県横浜市緑区長津田町4259)*18
最後に、ブログの執筆のために動画を見直した際私はどうやら試合中にポーカーフェイスをするのが苦手なようで、初期手札の良し悪しによってシンキングタイム中の表情がだいぶ異なることに気づきました。もりしーさんのクールな姿勢と対照的に私のリアクションがオーバー気味でした。表情で手札が読まれてしまうのは素数大富豪には限らずカードゲームでは欠点になりそうですが、このようなプレーヤーが多少なりともいたほうが視聴者側にとっては盛り上がるのではないかと思うのですが*19、いかがでしょう?

決勝の数譜です。意外と短い(4手、5手、5手)。

1本目
も:(2245679TTKX)
カ:(236678TJKKK)
も:D(J)46229
カ:D(3)76633,P(A678X)
も:57[GC]
も:KTTXJ|X=Q#


2本目
カ:(246689TKKKX)
も:(A23457TJJKX)
カ:KXTKK|X=Q
も:KXJTJ|X=K
カ:%
も:57[GC]
も:A423#


3本目
カ:(34568TTJJKK)
も:(245579JQQKX)
カ:KTTJKJ
も:D(X)XKQQXJ|X=K|X=T
カ:%
も:57[GC]
も:4259#

以上で、第3期Mathpower杯の解説をすべて終えました。私のブログの更新頻度が遅いせいで、放送された全13試合42勝負を扱うのに半年もかかってしまいました。この間に素数大富豪アドベントカレンダー2018、オンライン素数大富豪デーの始動、各大学での素数大富豪サークルの発足など素数大富豪界もさらなる広がりを見せています。まだ公式の発表はありませんが、10月には次期のMathpower杯が開催されますし、いずれ第2期せきゅーん杯(私にとっては防衛戦!)も行われることでしょう。10月まではまだ半年ほどありますから、これからの頑張り次第では大会で勝ち進むことのできる実力を身につけることができます。現に、もりしーさんは素数大富豪を始めて半年で第2期Mathpower杯を制しました。当ブログは次の大会の開催までは、素数大富豪の戦略や素数の覚え方など、素数大富豪に強くなるための情報を不定期ながら発信していくつもりです。今後とも「初代素数王の備忘録」をよろしくお願いいたします。

お知らせ

4月27日(土)・28日(日)に幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議2019」において素数大富豪が体験できます! 私もスタッフとして参加するので、私と対戦できるかも? さらに今回は対戦パズルゲーム「ゴドマチ」も体験できますよ!
chokaigi.jp
godomachi.net

*1:実際のMathpower杯も開始からここまで6時間経っています。

*2:正直に言うと少し休みたかった……

*3:もっと言うと、私はせきゅーん杯でも決勝トーナメントはすべて後手スタートでした。大会中のじゃんけんでは7連敗中。

*4:時間はタイムシフトにおけるこの勝負の放送時間です。

*5:当時作れそうだったのはAを引いて672A3(6721Xは四つ子素数)、2を引いて62627、5を引いて66523、7を引いて77263(7726Xは四つ子素数)など。

*6:実はせきゅーん杯の準決勝で3の倍数(612813)を出しています。詳しくはこちら。mathingnow.hatenablog.com

*7:「幹」という用語はこの記事だけのものです。

*8:7222Xのような「幹」がどう並べ替えても素数にならない四つ子素数もわずかですがあります。

*9:通常の「大富豪」では「8切り」の効果を持つ8で上がってはいけないというルールが採用されることがありますが、素数大富豪では上がりに関する制限は基本ルールでは設けられておりません。

*10:せきゅーん杯決勝の詳細についてははなぶさんの記事を参照。mathingnow.hatenablog.com

*11:この試合が行われたのは午前6時50分ころ。こちらも朝飯前。

*12:KTTJKJに返すにはT,Q,Kのどれかである必要があります。JだとQKQXJJ|X=Qが最大。

*13:蛇足ですが、2枚目のジョーカーをQに変えたXKQQXJ|X=K|X=Qも素数ですし、KXXQQJ|X=K|X=Kとすればさらに大きくできます。

*14:「試合中に長時間周囲を見ていると、カンニングと見なします」(「QK -1213-」第51話より)

*15:実戦では私は素数を出そうとして失敗した結果のペナルティでしたが、実質的にこの作戦と同じ展開となりました。

*16:それぞれもりしーさんに渡ったカードを除く42枚から初期手札11枚とドロー2回の計13枚(または、それにペナルティ5枚を加えた18枚)を選んだとき、KTTQJより大きな5枚出し素数がつくれる確率。

*17:出典: https://primes.utm.edu/curios/page.php/4259.htmlprimes.utm.edu

*18:出典: www.titech.ac.jp

*19:試合中のキグロさんのボヤキ、聞いていて楽しいし。