初代素数王の備忘録

KA4T6X|X=9(カステラくん)は素数。

【第3期Mathpower杯】2回戦-2 せきゅーん-キグロ

2回戦2試合目はせきゅーんさんとキグロさんというなかなかの好カード。キグロさんは日曜数学会*1の幹事。Mathpower杯では第1期・第2期ともにベスト4、せきゅーん杯でもベスト4の実力者。さらにこの記事の執筆時点(2018年11月)でおそらく唯一であろう素数大富豪小説「QK -1213-」*2の作者でもあります。せきゅーんさんは素数大富豪の考案者。1回戦でコロちゃんぬさんを破り2回戦進出です。じゃんけんにより1本目の先攻はキグロさんになりました。

1本目(13:44:53~13:49:43*3 )

初期手札 キ:(234557888JX) せ:(AA2799TTJJQ)
キグロさんの初期手札は絵札がJ,Xの2枚しかなく、しかも偶数が多め。キグロさんはこの11枚を3748828X55Jと並べています。一方のせきゅーんさんは絵札は5枚あるもののKがないのが辛いところ。とくに4枚出しに弱く、出せる最大は2QTJ(4枚出し35番目*4 )です。ドローに恵まれれば、絵札大量消費で親をとってラマヌジャン革命を仕掛ける奇襲ができる可能性がありますが……。

1.キ:48828X5=5^J|X=Q
2.せ:%
奇襲を仕掛けたのはキグロさんでした。解説のみうらさんも「キグロさんの札の順番が気になりますね」と気にしていらっしゃいましたが、その不可思議な並べ方はなんと合成数出し、48828X5=5^J|X=Q! これには壇上の素数判定員、解説も含めみな呆然。合成数出し成功と判定されたときには会場から自然と拍手が起きました。「知ってるのも凄いですけど気付くのももっと凄い」とみうらさんがコメントしています。合成数出しに気付かなかったために負けたという勝負も実際ありますので、「気付く」ことには覚えることとは違う難しさがあるといえます。せきゅーんさんはこの7枚出しにカウンターを試みるも時間切れにより強制パス。ちなみにせきゅーんさんが出そうとしていたのはJ9JTTQAでしたが、実はこれは素数。あと1秒、間に合いませんでした。
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3.キ:37#
キグロさんが残りの2枚を37として出して上がり。37は最小の非正則素数です。この勝負の12時間ほど前のMathpowerの企画「インテジャーズ イン 仮面ライダービルド」で紹介されていました。非正則素数について、詳しくはtsujimotterさんのこちらの記事を参照。
tsujimotter.hatenablog.com

1本目から大技が飛び出しました。2本目以降もハイレベルな勝負の予感……

2本目(13:50:35~14:06:04)

初期手札 せ:(AA289TTJJXX) キ:(A344889TJQK)
せきゅーんさんの初期手札にジョーカーが2枚あります。Q,Kがないのが惜しいですがT,Jが各2枚とかなり強い手札。なお初期手札11枚にジョーカーが2枚含まれる確率は約3.8%。2人のどちらかがジョーカーを2枚持っている確率はこの倍の約7.7%でおよそ13回に1回起こります*5。キグロさんは絵札がT,J,Q,K各1枚ずつと悪くはないですが、せきゅーんさんの優勢は変わりなし。

1.せ:D(2)J
2.キ:%
1手目、せきゅーんさんがドローしたのは2。時間ギリギリでJの1枚出し。直前の負けを引きずっているのか、この1枚出しに自信がなさそうです。キグロさんはノータイムでパスを選択。

3.せ:D(7)A729[RR]
4.キ:[R]D(9)A489
5.せ:[R]D(3)AX83|X=4
6.キ:[R]D(K)%
せきゅーんさんは再度ドロー、7を引きこれでラマヌジャン革命の4枚が揃いました。さっそくA729[RR]。みうらさんも解説していますが、もしこれを最初から狙っていたとすると1手目のJ・1枚出しは革命後に邪魔となる絵札を革命前に消費してしまおうという意図が考えられ、1本目の敗北に動揺していたわけではなさそうです。対するキグロさんはA483を用意してからドロー、9を引きます。A48Xはラマヌジャン革命A729にカウンターすることのできる唯一の四つ子素数です。A483、A489どちらも素数ですがキグロさんはA489を出します。せきゅーんさん、ドローは3。先ほどキグロさんが出そうとしていたAX83|X=4で再カウンター。これにはキグロさんもしまったという身振り。ちなみにA283も素数で、こちらならジョーカーを消費せずに出すことができました。キグロさんはドローするもKでパス。
6手目終了時の両者の手札 せ:(2TTJX)(残5枚) キ:(3489TJQKK)(残9枚)

7.せ:[R]D(6)J
8.キ:[R]D(6)8,P(2)
せきゅーんさんにはこの時点で2JTTX|X=Kや2→XTTJ|X=4での上がりがあります。ところがせきゅーんさんはドローして6。1手目同様、時間いっぱいまで使ってのJ・1枚出し。キグロさんは絵札5枚と革命時ではかなり苦しい手札。ドローはせきゅーんさん同様6で状況を打開できるカードではありません。8を出して1枚ですがペナルティを受けることを選びます。手に入れたのは2、革命時ではかなり強いカードです。ちなみに合成数出しを故意に間違えれば素因数場に出したカードの分も山札から引かなくてはいけないため場が1枚出しの場合でも大量のカードを引くことが可能です。今大会の放送試合では誰も合成数出し失敗を記録していませんでしたが、合成数出し失敗時の「若本ボイス」はあったそうです。

9.せ:[R]D(6)6T6TX|X=7,P(A79QK)
9手目のせきゅーんさんのドローはまたしても6。6T6TXを出しますがジョーカーを7と宣言。これは3の倍数(6106107=3*7*290767)なので素数でないことは簡単にチェックできます*6。ちなみに6T6TXはXが何であっても素数になりません(66TTX|X=3,T6T6X|X=9,T66TX|X=Jなどで素数)。このペナルティで両者手札が11枚に逆戻り。
9手目終了時の両者の手札 せ:(A26679TTQKX)(残11枚) キ:(234689TJQKK)(残11枚)

10.キ:[R]KTQJ
11.せ:[R]D(3)A729[RR]
12.キ:D(2)3469
13.せ:D(3)66T3
14.キ:822K,P(4568)
せきゅーんさんがペナルティを受けたことでキグロさんに親がまわってきました。制限時間の最後まで手札を並べ替え、出したのはKTQJ。4枚出しでは3番目に大きな素数ですが革命中なので3番目に弱い。それでもキグロさんは絵札の消費を優先しました。手札は3469、82Kに分かれていますが(2,8,K)は詰んでるセットです。せきゅーんさん、先ほどのペナルティの結果手札にA,7,9が加わり再びラマヌジャン革命が出せる状態になっていました。ドローの後、A729[RR]。この勝負2回目のラマヌジャン革命により場が平常に戻ります。キグロさんが絵札を大量消費した直後なのでこれは最高のタイミングでの革命です。キグロさんは2をドローして、当初の勝負手3469を出します。346Xは四つ子で、しばしば「三四郎」と呼ばれています。3469には「3-Sylow群」*7という語呂合わせもあるようです。せきゅーんさんのドローは3。66T3を出し、素数。この判定にせきゅーんさんは安堵の表情。どうやら66T3が素数かどうか知らなかったらしく、「出会い」だったようです。ちなみに66TXはX=3,7,9で素数になる三つ子です。14手目、キグロさんは822Kを出します。これが素数であればキグロさんの上がりとなりますが、残念ながら合成数(82213=19*4327)。
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15.せ:KQX|X=K
16.キ:%
せきゅーんさんの残り手札は(3TQKX)、革命が2回起き場が平常なので、この手札ならどうとでも勝てます*8。せきゅーんさんはここからT3を残しKQX|X=K。3枚出しで2番目に大きな素数です。キグロさんはいったんは山札に手をかけるものの諦めてパス。

17.せ:T3#
せきゅーんさんがT3で上がり。1-1のタイとなりました。

2本目は2度のラマヌジャン革命でキグロさんを翻弄したせきゅーんさんが勝利を収めました。試合は3本目に突入します。

3本目(14:07:02~14:13:53)

初期手札 キ:(A355678JJKK) せ:(233456799QQ)
キグロさんは初期手札に3枚出し最大素数KKJがあり、これを勝負手にするのがよさそう。キグロさんもKKJの存在に気づき、手札右側に寄せます。せきゅーんさんの初期手札は絵札がQ・2枚のみとあまり嬉しくない構成。両者にグロタンカットのチャンスがあります。

1.キ:D(5)6A
2.せ:D(Q)73
3.キ:8J
4.せ:D(A)QQ,P(4T)
シンキングタイムが終わっても手札の並べ替えを続けるキグロさん。どうやら手札を組むのに苦戦している様子。ドローをし、時間切れ直前で6Aを出します。せきゅーんさん、ドローしますがQ、これで手札のQは3枚。2枚出しにおいてQがつく素数はQ7とQKしかないのでQはかなり厄介です。キグロさんは8Jを返します。残りの手札は557、53、KKJに分かれています。せきゅーんさんはドローしますが、返せるカードがなくQQでカマトト。
4手目終了時の両者の手札 キ:(35557JKK)(残8枚) せ:(A23445699TQQQ)(残13枚)

5.キ:557
6.せ:D(T)593
7.キ:KKJ
8.せ:%
先ほどまでに手札を組み切ったキグロさん、557を出します。せきゅーんさんの出した593に対しては3枚出し最大素数KKJ。これを見てせきゅーんさんはパス。事実上の投了です。

9.キ:53#
キグロさんが53を出して上がり。準々決勝進出となります。
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3本目は初期手札にKKJがあったキグロさんが勝負を優位に進め勝利しました。

講評

素数大富豪考案者vsベテランプレーヤーという対戦でしたが、どの勝負も白熱した展開となり見応えがありました。1本目の合成数出しは先述の「QK -1213-」の第45話を彷彿させるものでした*9。そのエピソードを超えるような勝負をキグロさん自身が実現させました。しかも5^11はMathpower杯直前に投稿された第60話に登場する合成数。キグロさんにとっては記憶に新しい合成数だったのではないでしょうか。ゆぅくりっどさんの以下の記事でも紹介されているロマン溢れる合成数です。
akatanana-818ubugqm.hatenablog.com
2本目はラマヌジャン革命を効果的に使ったせきゅーんさんの戦略勝ち。「再革命」はほとんど例がなく、私が目にしたのはこれが初めてだと思います。最初の革命後のA489→AX83|X=4という連続カウンターも見事でした。
3本目は初期手札の良し悪しが勝敗を分けました。1手目で手札を組み切れなかったキグロさんが苦し紛れに出した6Aは手札にQK,TK,9Jのないキグロさんからするとあまりよくない手でしたが、せきゅーんさんの手札がよくなかったことに救われた恰好になりました。ちなみに、キグロさんの初期手札からの組み方のひとつとして

  • 653→KKJ→57[GC]→8AJ

がありました。

数譜でもう一度この試合を振り返りましょう。

1本目
キ:(234557888JX)
せ:(AA2799TTJJQ)
キ:48828X5=5^J|X=Q
せ:%
キ:37#


2本目
せ:(AA289TTJJXX)
キ:(A344889TJQK)
せ:D(2)J
キ:%
せ:D(7)A729[RR]
キ:[R]D(9)A489
せ:[R]D(3)AX83|X=4
キ:[R]D(K)%
せ:[R]D(6)J
キ:[R]D(6)8,P(2)
せ:[R]D(6)6T6TX|X=7,P(A79QK)
キ:[R]KTQJ
せ:[R]D(3)A729[RR]
キ:D(2)3469
せ:D(3)66T3
キ:822K,P(4568)
せ:KQX|X=K
キ:%
せ:T3#


3本目
キ:(A355678JJKK)
せ:(233456799QQ)
キ:D(5)6A
せ:D(Q)73
キ:8J
せ:D(A)QQ,P(4T)
キ:557
せ:D(T)593
キ:KKJ
せ:%
キ:53#

次回は私・カステラが戦います。相手はジャッカルさんです。

*1:5分間で数学を語るイベント(twitterの自己紹介より)。公式twitter:@nichimath

*2:小説投稿サイト「カクヨム」にて連載中。kakuyomu.jp

*3:時間はタイムシフトにおけるこの勝負の放送時間です。https://live2.nicovideo.jp/watch/lv314662902

*4:上位互換のみ。

*5:初期手札でプレーヤー2人のどちらかがジョーカーを2枚持っているという事象は第3期Mathpower杯では放送された勝負42回に対し3回起こっており確率による想定に近い値でした。

*6:各位の和が3の倍数であればもとの数も3の倍数。

*7:数学の、とくに有限群の理論において「Sylowの定理」と呼ばれる重要な定理があります。有限群G素数pに対し、その極大であるようなp-部分群(位数がpの冪であるような部分群)をGのSylowp-部分群というのですが、Sylowの定理はSylowp-部分群についての情報を与える定理です。

*8:実戦の進行はKQX|X=K→T3でしたが必勝のルートだけでも3QXTK|X=Qや3→X[IN]→QTK(もう1枚のジョーカーはすでに流れていることに注意)があります。

*9:「何てこっちゃ?」って方はリンクから読んでください。ここではネタバレはいたしません。